main | ナノ
「プロシュート〜ゴム持ってる?」
「は?今からヤんのか?溜まってんな」
「頭湧いてんな。髪ゴムのことだよ」
「なんだ、発情期かと思ったぜ」
「そりゃあんたでしょ」
奇妙な髪型をかっこいいと思っているのか、プロシュートは髪ゴムを多く所持していた。
名前はちょうど髪が伸びてきて首筋にあたる煩わしさからプロシュートを頼ってきたのだ。
ほらよ、と髪ゴムが入った小袋を手渡される。小袋から何個かゴムを抜き取ると、名前は一つを口に咥え、他をポケットにしまった。
口に咥えたゴムを取り、ひょいっとひとつ括りをする。
栗色の髪がぴょこん、と項の上で揺れる。
「そうやってるとガキみてぇだな」
「ガキじゃないし」
「ベッドでは激しいもんな?」
「本当に黙ってくんない?」
そういいながら部屋を出ていこうとする名前を呼び止める。
「どっか行くのか?」
「暑いからさ、ジェラート食べに行こうかなって。行く?」
「ああ」
「じゃあラウンジで待ってる」
「すぐ行く」
名前と外に出かけるのは少ない。
それもこれも彼女が根っからのインドア派だからだ。
めずらしく外に行くと聞けばそのチャンスを逃す手はないとプロシュートは大急ぎで外出の準備をした。
ラウンジに行くと名前はリゾットと談笑をしていた。
すぐにプロシュートに気がつくと彼に駆け寄る。
口は悪いが仕草は馬鹿みたいに可愛い。
それを気付かずやってるこいつは本当にタチが悪い、とプロシュートは小さくため息をついた。
「どうしたの?」
「なんでもない」
恋人って関係は、なってしまえばどうってことない。
今までが仲が良かったぶん、そこに愛の言葉だとかキスとかセックスとかが付加されるだけだ。
現に名前との関係はそうだった。
いや、愛の言葉すらほとんどなかった。
半ば抜けがけのように彼女に愛を伝えたプロシュートが一人勝ちしたようなものだった。
昔一度だけ自分のことを好きか、と彼女に聞けば肯定の返事が返ってきただけだった。
その程度だ。恋人って言いながらもその程度だった。
「プロシュート」
「なんだよ」
自分はこんなにも愛しているのにお前はいつも俺を見やしない。いっそ何処かに閉じ込めてしまおうか?そんなことすら、考えてるのに。
「やっと、2人きりだね」
名前から放たれた言葉はプロシュートを硬直させた。
むしろ今から言おうかと思っていた言葉だ。
“やっと”なんて、まるで待ち望んでたみたいじゃあないか。
“2人きり”なんて、強調するようなキャラじゃなかっただろお前。
ぐるぐると頭の中を回る名前の言葉。
立ち止まったプロシュートを不審に思ったのか、名前彼の顔を覗き込む。
「具合悪い?暑さにやられた?」
やられたのはお前の言葉だ、ばか。
その言葉を飲み込む代わりに彼女を抱きしめた。
暑さからじんわりと汗ばみ熱を持った体は決して心地のいいものではなかったが、恋しいものであった。
名前は腕の中で驚いた声をあげ、その拘束から逃れようとしていたが、男と女ではやはり差がある。
しばらくすると手持ち無沙汰の両腕をプロシュートの背中に回した。
「暑いよプロシュート」
「そうだな」
「どうしたの?」
「嬉しかっただけだ」
「?」
“お前の口から、やっと2人きり、なんて言葉が聞けてな”
そういいながらプロシュートは名前を離す。
名前は酷く顔を赤くし俯いた。
俯いても耳までの赤みで容易に表情が想像出来る。
「照れてんのかよ」
「うるさい」
「ジェラート買いに行くんだろ」
「……やだ」
「は?」
「もうちょっとだけ、さっきの続きする」
そんな恥ずかしそうな顔で見上げんなよ。
こっちが照れるだろ。
プロシュートはため息をつき、少しでも鼓動が収まるように願いながらもう一度深く名前を抱きしめた。
Perverse
(好きなんて、言ってあげない)
(伝わってるから安心しろ)