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放課後、山吹中


「あっくん、その漢字違う」

「あ?読めりゃいいだろうが」

「ホンット、弓子ちゃんはかわいいなぁ〜」

「読めても意味がめちゃくちゃってダメでしょ。はい、書き直し」

「あ!?てめぇ、何勝手に消してんだよ!?」

「宿題の手伝いしてるんだから文句言わない!はい、最初から」

「チッ」

「愛弓ちゃんはセクシー系だよね〜」

「うっせぇぞ千石!」


場所は教室
室内には亜久津、名前、そして千石とそのガールフレンド達
しかし、千石は名前の彼氏である
つまりこの状況は彼女の目の前で絶賛ナンパ中ということ

だが、当の本人、つまり名前はというと涼しい顔


「キヨくんー、どっかいこーよ」

「そうそう、どっかいこー」

「い、いやぁ、でも、ねぇ」


千石はチラリと名前を見る


「ま、この調子なら30分かな」


名前の言葉に千石は頷くとガールフレンド達を引き連れて教室を出ていった





「さ、あっくん。外野もいなくなったから再開しようか」

「それはかまわねぇけど」

「なに?」

「お前、本当に千石と付き合ってんのか?」

「うん」


なんだ、そんな話か、と名前はシャーペンを器用に回しながらため息をついた


「何を今更…」

「本当にあいつでいいのか?」

「どういうこと?」

「そのまんまの意味だ」

「心配してくれてんの?」

「うっせぇ!!!」

「あはは、あっくんかわいいー」

「うっせぇ!質問に答えろ!」


亜久津がガンッと机を蹴るも名前は飄々としている


「慣れたよ」

「あ?」

「清純の女好きはどうしようもないって、だってあいつにとってナンパは呼吸と等しいから」

『ん、正解』と亜久津の解答用紙に丸をつける

「お前は、それでいいのか?」

「と、言いますと?」

「てめぇのことをちゃんと見やしねぇ男で良いのかって聞いてんだよ!」

亜久津が立ち上がる

「この俺を振っといてて苦しいだのツラいだの言いやがったら承知しねぇぞ!」

「あっくん…」


亜久津が名前に告白をしたのは随分前
(告白というより、俺の女になれという命令形だった)
そのころから名前と千石は付き合っていたが日頃の様子からはまったくわからなかった
赤っ恥だ、と亜久津は文句を言ったが、それ以降、名前とも友人としていい付き合いをしていた
しかし、近くにいるからこそ感じる千石の名前への扱い


「なんていうかね、わかってるから私達」

「わかってる?」

「そう、わかってる」

「何いってんだかわかんねぇ」

「そうだね、わかりにくいね。さ、今日はここぐらいまででいいでしょ。…清純」


名前が名前を呼ぶと『バレた?』と少し恥ずかしそうに千石がドアから顔を覗かせた


「私、職員室に用事あるから先に玄関行ってて」

「了解。あ、夕飯食べてかない?」

「いいねぇ、スパゲティ食べたい」

「オッケー!いいお店、最近出来たらしいんだけど行かない?」

「弓子ちゃん情報と見た」

「正解!」

「ふふ、じゃあそこ行ってみようか」


名前は職員室に向かった



教室に残った二つの影


「おい、千石」

「何?亜久津」

「お前は…誰が好きなんだ?」

「女の子ぜんぶ!」

「な!?名前はどうなんだよ!?」


亜久津が食って掛かるも千石は飄々としていた
その態度にますます亜久津は腹をたてる


「だめだなぁ、あっくんの聞き方が悪いんだよ」

「あ?」

「俺は女の子ぜんぶだーいすきだけど」








愛してるのは名前だけだよ










「…」


よくもまあ恥ずかしいことをぬけぬけと言えたものだ
亜久津は思わず硬直する


「じゃ、俺いくわ。またね、亜久津」


軽く手を振り、千石は教室を去った







「あれ?亜久津先輩?」

「あ?太一か、まだ残ってたのか。てかここ三年の教室だぞ」

「知ってるですよー、千石先輩に用事があったんですけど…もう名前先輩と帰っちゃったみたいですね」


太一は肩を落とす


「千石の机はそこだ。なんか返すんならそこにおいとけ」

「あ、はいです!ありがとうございますです!」


太一は千石から借りた辞書を机に置く
するとクスクス笑いだした


「どうした太一」

「いえ、本当にラブラブですね、あの二人」

「そうか?」

「千石先輩、机にプリクラが貼ってありますよ」

「…」


関を移動し、見てみればなるほど、確かに名前と千石のプリクラだった
二人とも心底幸せそうに笑っていた


「そういえば亜久津先輩気づいてました?」

「千石先輩、名前先輩以外の女性を人に紹介するときに『ガールフレンド』って言うんです!」

「だからどうした」

「ああ、続きがあるですよ!名前先輩のことは『彼女』とか『恋人』って紹介するです!すごくないですか?何だかんだで名前先輩大好きなんですよね、千石先輩!」

「…」


考えてんじゃねぇか



亜久津はふと外を見る


楽しそうに笑いながら手を繋ぎ校門を後にする名前と千石


「…ケッ」

「どうしたです?」

「なんでもねぇよ!用が済んだなら帰るぞ太一!」

「は、はいです!」

「…」




理解恋
(せいぜい幸せになりやがれ)