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「名前ー」

「うわ、ちょ、ブン太、やめ…んっ」

「ごちそーさま!じゃ、部活行って来るぜぃ!」


そういって教室を飛び出すブン太
後姿を恨めしそうに見つめる名前

二人が付き合っているのは立海では有名だった
それもこれも


「名前ーちゅー!」

「え、ちょっと、皆の前…!んんっ」



所かまわず名前にキスをするからだった
真田に怒られようと気にせず、名前にキスできないならテニスもできない!なんて言うもんだから真田も渋々許可している

そして今日も、『部活にいってきます』のチューをして出て行った、というところなのだ


「名前は苦労人じゃのー」

「仁王…」


教室に残っているのは仁王と名前だけだった
今日は二人が日直の当番で日誌を書いて所にブン太が登場
仁王はまるで存在しないかのごとく名前にキスをして出て行った



「本当に…心臓に悪いよ」

「でもお前さん、ブン太のこと大好きじゃろ?」

「そりゃ好きだけど、いきなりとかずるいじゃん。心の準備の時間欲しいし」

「そろそろ慣れんしゃい」

「慣れたら苦労しないよ…だっていきなり大好きなブン太がチューしてくるんだよ!?」

「はいはい、ノロケはいくらでも聞いちゃるけぇ、手を動かしんしゃい、手を」


仁王は二人の馴れ初めを知っている分、ノロケを聞くという面倒な役回りとなっていた
しかし、最近は慣れたもの
簡単に受け流すスキルを身につけていた



「名前はブン太にキスされたくないんか?」

「え、いや、されたいよ、されたいけどさ」

「けど、なんじゃ?」





「・・・私からもしたい」





真っ赤になりながら答える名前
それを見て呆れる仁王


「すればよか」

「出来ないから言ってるの!」

「なんじゃ、要は名前からキスするまえにされるってことかの?」

「そう、そういうこと」

「ふぅん…しゃーない。通りすがりのきのこ売りが助言してしんぜよう」

「海原祭から引きずってきたね…で、なに?」

「それは…」





















あくる日


「名前ー!おは…え?」

「おはよー、ブン太!ちゃんと宿題してきた?」

「お、おう…」


いつもなら『おはようのチュー』なのだが、今日はそれをするのをためらった
そう、名前の唇がいつもより桃色で輝いていたから


「それ、なに?」

「ん?グロスだよ」

「グロ…?って校則違反だろそれ!」

「大丈夫大丈夫、薬用のグロスだし、化粧濃い子はもっといるしね」


名前は図書館に本を返しに行く、といってその場を去った





そして取り残されたガム



「あ、ブンちゃん、しけたツラしとるのう、おはよーさ…ん"ん"!!!!???」

「仁王ぉおおおおおおおおお」


ブン太は勢い良く仁王に抱きついた
俺にはそんな趣味はないぜよ!?と仁王が暴れるも、ブン太はギリギリと仁王を締め上げる




「な、なにしてるんすか、二人とも…」

「お、おお、赤也、ちょ、このデブはがしてくれんか」

「えー、めんどいっす」

「昼飯は焼肉定食でどうじゃ」

「のった!!」


焼肉定食に釣られて、赤也が加勢しブン太はやっと仁王から離れた
朝からえらい目にあったと仁王は急に帰りたくなった


「で、何で丸井先輩は仁王先輩に抱きついてたんッスか?…ハッ!まさか…ここは日本ッス!無理ッスよ!」

「おーおー、赤也の脳みそは一気に俺らがゴールインする設定になっとるのう。アホめ」

「なっ!?じょ、冗談ッスよ冗談!で、何であんなことに?」

「知らん。朝の挨拶したら抱きつかれた。ま、まさかブンちゃん・・・!」

「ちげぇよ!!!あー、もう!聞け!お前ら!」

「「聞いとるナリ(聞いてるッス)」」


ブン太はブツブツ文句を言いながら名前がグロスをつけてきたことを話した
赤也はグロスって何スか?と男子中学生らしい質問をし、仁王は呆れるように笑っていた
その笑顔を見てブン太は『こいつ、何か知っている』と感づき、仁王に詰め寄る


「仁王!お前何か知ってるだろい?」


仁王は首を傾げる


「知らん」

「嘘だ!ぜってぇ嘘だ!お前、昨日名前と日直で居残りしてたろ!そん時名前に何吹き込んだんだよ!」

「人聞きが悪いのう、ブンちゃん。吹き込んだわけじゃなか、相談されんじゃよ」

「名前に?」

「名前に。」

「な、何を…?」

「ブン太がチューしてくるのが迷惑でなんとかして欲しいって言われた」

「!?!?!?!?!?」


嘘は言っていない
ただ、






大事な部分を端折っただけだ。



「あーあ、丸井先輩ふられちゃいましたねー」

「こら、赤也、それは言うたらあかんじゃろ」

「えー、だってー」


ブン太は何も言わなかった
その場で肩を震わせ、猛スピードでその場を後にした
走りながら名前の名前を何度も叫び、おそらく校舎内に響いていたことだろう


「あんなに叫んでたら真田副部長に怒鳴られるッスね。で、仁王先輩」

「ん?」

「シラきるつもりッスか?名前先輩のことになると冷静になれない丸井先輩とは違って、俺、結構冷静なんスよ。何があったんスか?」

「ほう。赤也にしては頭の回転がええのう。いかにも、名前はブン太のいきなりのチューに困惑しとった。じゃき、チューしにくいようにグロスを付ければよかってアドバイスしたっただけぜよ」

「なーるほど」

「あと、名前はいつもブン太からチューされるけぇ、自分からしたいとも言っとったの」

「うっわ。丸井先輩愛されてるッスね。羨ましい」

「あーんなに好かれてみたいもんじゃの」

「ッスねぇ…って、俺、先生に呼び出しくらってたんだった!失礼します!」

「どーせまた英語で赤点取ったんじゃろ。専属家庭教師のジャッカルがかわいそうじゃ」

「う、うるさいッスよ!じゃ!」

「こってりシボられてきんしゃい」



仁王は軽く背伸びをし、再び猫背に戻ると教室へと向かった




廊下を歩いていると声をかけられた



「おい、仁王」

「ん?ああ、ハゲか」

「特徴で呼ぶな!」


ジャッカルだった


「すまんすまん、でなんじゃ?」

「なんかブン太が騒いでるらしい」

「それは知っとるよ」

「教室で大号泣らしい」

「見ものじゃな。行くか」




















「ちょ、ちょちょちょ」

「うええええええええん!!!捨てないでくれよ名前ーーーーーー!!!!」


名前を抱きしめ、泣き叫ぶブン太
その様子に引く周り

名前の友人らが止めるもブン太はまるで聞こえていない
ただひたすら捨てないでくれを連呼するばかり
仁王は『やりすぎたか』と肩をすくめる



「ほん、と、ブン太どうしたの!?」

「チューするの止める!止めるから捨てないでくれ!」

「え、チュー?」

「うん!チュー!名前、チューが嫌いなんだろい?だから化粧してんだろい?」

「いや、あの…違う」

「え?」


ブン太はピタリと泣き止み名前を見る


「ち、違うの?」

「全部が全部違うわけじゃないけど、チューは、その…好き」


恥ずかしそうに名前は俯く
ブン太はそんな名前がとてつもなく可愛らしく感じていつものようにキスしたくなり、髪の毛に触れるだけのキスをする
すると名前は慌てて顔を上げた


「そ、それがだめなの!」

「でもチュー好きなんだろい?」

「いきなりがだめなの!」

「なんで?」

「なんでって・・・」


ブン太の腕の中で逃げ場も無く、名前はただただ顔を真っ赤にするだけだった
そして意を決したように顔をあげる



「ブン太が大好きだから、私からもチューしたいの!」


そういうが早いか



名前の唇はしっかりブン太のソレと重なっていた



ぷはっと唇を離せば硬直したブン太



「あと、不意打ちも禁止!心臓に悪い!」


ぎゅう、とブン太の胸に顔をうずめる



「やば、どうしよ」

「ブン太…?」


名前が顔を上げる


「嬉しくて涙出てきた」


「泣いてるブン太も可愛くて大好きだよ!」


「俺は名前の全部が大好きだぜぃ!」












輝けグロス!
(どうでもええが、ここ教室ってのわかっとるんかの、あの二人)