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「かわいいね」


そう言って笑われたときに始まっていた










なんやねん、なんやねん



「なんやっちゅーねん」


氷帝の天才忍足侑士はコート際のベンチに座りながらブツブツと呟いていた


「侑士きもちわりぃ」

相方の岳人に罵られようがまったく相手にせずただ遠くを見つめていた

その氷帝男子テニス部部員にあるまじき様子に部長である跡部がため息をつきながら声をかける



「忍足、変に磨きがかかって余計に気持ち悪いがどうした?」

「跡部は俺を傷つけるんが目的なん?それとも慰めてくれるん?」

「どちらかと言えば前者だが、ため息ばかりじゃコッチもテンション下がるってんだよ」

「そらすまんかったな」


それでもため息を止めない忍足

跡部も飽きれ、その場を去ろうとした



「なあ跡部」



「なんだよ」



跡部は忍足の呼び止めにめんどくさそうに反応する

岳人もたまたま忍足の様子を見に来ていたので、どうしたどうしたと頭を覗かせていた




「俺…ガキなんやろか…」



「「は?」」





跡部と岳人は顔を見合わせる

そして口角を上げる

笑いを堪えているのが見え見えだった


「跡部サン、向日サン、笑いのネタやあらへんねん。こちとら本気やねん」


忍足は想像以上に深刻そうだった


「・・・理由を聞かせてもらおうか」


跡部は忍足の横に腰をかける

岳人も跡部と忍足を挟む形でベンチに腰掛ける



「あんなぁ、昨日大学部の先輩にたまたま会うてん」

「大学部?高等部のやつらは時々見るが大学部ってのは珍しいな」

「せやろ?んで、監督に用事があるっちゅーから音楽室まで案内したんや」

「榊監督に?まあ、お前がとった行動は今のところ間違っちゃいねえが…」

「まあ聞きや、音楽室まで案内したらおおきにってお礼言われてん」

「あ?関西出身か?」

「あれや、ニュアンス的におおきになんや」

「侑士って関西推しすぎだろ」

「うっさいわ岳人、だまっとき。んでな、そん時言われてん」







『こんなに親切に教えてくれて助かったよ、かわいいね、君』







「どこや…どこにかわいいの要素があんねん。岳人や慈郎ならわかんねんで?せやけど俺かよ!」

一人呟き嘆き悲しみ突っ込む姿は滑稽だった

しかし今それにつっこんでいたらキリがないので二人は黙り、話を聞く


「まあ女の可愛いってのはよくわからねぇからな」

フン、と鼻で笑う跡部に忍足はため息をつく

「あんな、問題はそこっちゃうねん。その人がな、ものごっつべっぴんさんやってん」

「あ?んじゃ侑士はそのねーちゃんに惚れたってこと?」

「せやなぁ、あれは卑怯すぎるわ。どストライク、恋の満塁ホームランや」

「何が言いたいのかわかりたくもないが…ん?」


跡部が視線をそらす。忍足、岳人もそれにつられて目線を移す。





そして忍足は固まった






「あの人や…」




スーツを来た女性が榊と歩いていた。
『ものごっつべっぴんさん』と忍足が称したのも頷ける。

その女性は忍足を見るなりにっこりと微笑んで手を振った。
忍足もつられて手を振る。
跡部と岳人は心底面白くなさそうにその姿を見る。
すると榊が跡部を呼び寄せた。



話によると教育実習で大学部からテニス部専属のスポーツトレーナーとして配属されたのだという





「君、忍足君って言うんだね」




苗字名前と名乗った女性はニコニコ笑って握手してきた


大学部といっても女性。身長は若干岳人より高いくらいで…




つまり彼女から見上げるかたちで







「───っ!?」


どこか幼さの残るその笑顔は忍足の思考回路を麻痺させるに充分だった





「よ、よろしゅう、忍足侑士です…」


「よろしくね、忍足くん!いやぁ、昨日は助かったよ!ありがとう!」


ニコニコと微笑む名前だが忍足は



あかん

これはあかん、あかん



「あの、彼氏いはるんですか?」



「「(いきなりかよ!?)」」




思考回路が上手くつながっていないようでいきなり彼氏の有無を聞いていた。
これには流石の跡部や岳人も反応できず成り行きを見守る。




「彼氏?今はいないなぁ…」

「こ、好みは」

「好み?うーん…年下かなぁ?私って子どもっぽくてさぁ、お姉さんヅラしたくて!」





「せ、せやったら…」






俺なんかどーです?





「結構、イケメンおりまっせ、うちのテニス部」








何言ってんねん、俺






「「(なに言ってんだアイツ)」」





その言葉に名前は笑った



「あはははは!面白いね、忍足クン!」





そして背の高い忍足を見上げる



「君を見てたらわかるよ、すごく素敵な子達ばっかりみたいだね」


名前はチラリと跡部たちを見る


「特に忍足クンはかっこいいし、かわいいね」

「あの、かっこいい言われるんは、めっちゃ嬉しいんですけど、なんでかわええんです?」

「ああ、だって昨日私を案内するときに会話しようって一生懸命しゃべってくれたでしょ?背伸びして。私、そういうのがすっごく嬉しくて、それに、そういうところがとっても可愛いって思って…って、さすがに男の子にかわいいは失礼だったよね?」


ごめんね、と肩をすくめる名前に忍足は苦笑した


「先輩、かわええ子が好みなんです?」

「ん?ああ、そうだねぇ、好きだね」

「ほな」




忍足は笑った











「かわええまんまでええですわ」









まだ大人はりたくない

(先輩の好きなタイプやねんやろ?嬉しいやん)