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君と別れてからどれくらいたっただろうか




昔は毎日遊んで、笑って、泣いて、喧嘩して

『大きくなったら結婚しよう』なんて約束して



毎日がキラキラ輝いていて



あの日、


「私、引っ越すことになったさ」


そういった君の顔が、見たこと無いくらい暗くて


小学生なりにお付き合いなんてマセたことしてたのに
ほんの二ヶ月足らずで、サヨナラ



「ごめんね、凛」



彼女から言われた言葉で覚えているのはそれが最後だった
たぶん、そう













はじめは連絡を取り合っていた
でも、中学にあがってお互いに忙しくなって

気が付けば携帯にアドレスと名前が登録されているだけの薄っぺらい関係になっていた


何度も連絡を取ろうとおもったが、結局なんて切り出せばいいかわからず仕舞いで電源ボタンを押す、を繰り返していた


「はぁ…」

「どーした凛」


同じクラスになった裕次郎とはもう3年の付き合い


「ちゅーや部活が休みなのに、元気が無いな、凛」


そして小学校のときからの付き合いの寛


「そんなときはそんなときやしちゅんなものをいっぺーかむんんかいかぎるさぁ!」

「それはやーだけだろデブ」


そして田仁志


永四郎を待ちながら俺らの教室でダラダラとしゃべっていた




連絡を取らなくなってから随分経つが、時々携帯のアドレス欄にあるあの子の名前を見てため息をつくのがクセになっていた
あんまり、皆の前で携帯はいじらんけど、あまりにも暇で、ため息をつくに至っている


「凛」

「ぬぅ?」


話しかけてきたのは寛で


「やー、まだ名前のことが好きなんだば?」





は?





「なんだばそれ!?詳しく教えれ!」


反応したのは裕次郎だった


「ちょ、寛、やめれ」

「凛の元カノさー」

「げぇ!?凛彼女いたんばー?知らんかったさー」

「昔の話さぁ…」


『彼女』という意味を本質的に理解してから第三者に彼女と言われるのはなにやら気恥ずかしい


「やー、連絡とってねーんか?」

「取っとらん…今更なんて送ればいーかわがんねーし」

「ちゅらかーぎー?」

「当たり前やっしー。俺の彼女だぞ?」

「で、その彼女とはなんで別れたんばぁ?」

「引越しさぁ。親の都合でなー」

「ふーん」


そう、ガキの俺らの恋心なんて大人にとってはお遊び
別に取るに足らないことだったんだろうな


「なあ、凛」

「ん?」

「今からその子に連絡しれ」

「は?」

「いーがら!連絡しれ!」


なんでか裕次郎は興奮気味に命令してくる
さっきまでうるさかった田仁志も黙ってるし、寛もことの成り行きを見守っている


「べ、別に話すことなんてないさぁ」

「それはいけませんね平古場クン」

「げぇ!?えーしろー、いつからいたんばぁ!?」

「知念くんの『凛の元カノさー』あたりからですかね」

「最初からじゃねーか!」

俺は肩を落とし、携帯をポケットにしまうことにした、が




「バイキングホーン!!!!!」


「やーふらーか!?」


裕次郎のバイキングホーンで跳ね上げられた俺の携帯
それは見事キャッチされた

そう、永四郎に


「えーしろー!わんぬ携帯返せ!」

「知念クン、彼女の名前は?」

「苗字名前」

「寛ィ!」

「可愛い名前さぁ」

「裕次郎は黙ってろ!」

「苗字、苗字…ああ、ありました」

「って、永四郎は何勝手に操作しとんばぁ!?」


急いで永四郎から携帯を奪い返そうとするも、さすがに横方向に動かれては追いつけない


しばらくすると、携帯が返ってきた
しかし画面には

『call』


「ちょ、えーしろ「名前さんに電話をかけました。ほら、ちゃんと耳に当てておきなさい」


俺はどうしていいかわからず携帯を耳に当てる


コール音が聞こえる
つまり携帯は、名前へと繋がっている


胸が高鳴るのがわかった


同時に、まわりがニヤニヤしているのもわかった




『…もしもし?』


「!!!」



俺の反応で裕次郎たちも「おお!」と声を上げる


『・・・・凛くん、なの?』

「お、おお、久しぶりやさー、名前」

『あははっホントに凛くんだ!久しぶりだね!』

ちょっとイントネーションが変わった名前
それでも声は昔のまま…まあ少し大人っぽくなったけど、とても懐かしかった


「なーんか、一気に東京モンになったさーねー」

『ああ、ごほんっ、そんなことないさぁ、やっぱ標準語はなじめんし、ウチナーグチが最高やっさー』


ああ、これだ

ぐっと懐かしくなる


思わず頬が緩むが裕次郎のニヤニヤ顔が目に入ってやめた


「元気にしとんばー?」

『うん!凛くんも元気そうでよかった』


我慢できず俺は笑ってしまった
幸せすぎて


でも


「あははははは!!!凛、ニヤけすぎやっしーー!!!」

「ちょ、甲斐くん、聞こえますよ」

「もうこの際聞こえてもいーだろ、名前ー久しぶりさぁ、知念やしー」

「東京のメシは美味いか!?」

「やーらかしましい!」

『知念クンもおるんば?わー、知念クン久しぶり〜』


名前は電話の向こうで挨拶しだすし、ああ、もう


携帯をハンズフリーモードにする


「名前ーしゃべってみれー」

『あーい、やっほー、聞こえるー?』

「おう、聞こえるー」



その後、裕次郎や永四郎、寛に田仁志

皆の相手を丁寧にしていた名前



『しゃべりすぎちゃったね、あ、最後に凛くんだけしゃべりたいことあるからいいかな?』

「おー」


ハンズフリーモードを解除して教室を出る
裕次郎がついてこようとしたが、永四郎にとめられてた







「もしもし?騒がしかったろ?」

『ううん、楽しかった。にふぇーでーびる(ありがとう)!』


時々まざるウチナーグチが可愛くて、可愛くて


「…名前は……、彼氏おるんばぁ?」

『え?』

「あ、いや…名前、すごく可愛かったし、そっちでも…」

『凛くん、覚えてないの?最後の言葉』

「え、『ごめんね、凛くん』?」

『そーのーあーとーさー!凛くんが言った言葉!』

「えっと…」

ああ、そうだ

なんか言ってた気がする



『もう、思い出したから電話くれたのかと思ったのに』

「う〜…ごめん、でも、確信した」

『何をよ?』

「俺、名前のこと、まだ好きさ。大好きさ。だからあれでサヨナラは嫌やし。絶対連れ戻してやるさー、だから…」


あれ?この台詞


『プッ…凛くんの気持ち、昔のまんまなんだ、安心した』

「これ、俺…」

『うん、いいよ、続けて』







「サヨナラは取り消し、連れ戻すまでは、会いに行く。何回でも何十回でも」









電話越しに聞こえるすすり泣く声


「名前?泣いてるんばぁ?」

『うん、泣いてる。嬉し泣き』

「ご、ごめ」

『何で謝るさぁ、嬉しいって言ってるやし』

「じゃあ、なんて言えばいいんやぁ?」

『もう一回、言ってよ』

「ぬぅを?」

『自分で考えて』

「ん〜…」


少し考える
いや、たぶんこれで正解なのはわかってる
けど、


「恥ずかしいやぁ」

『はーやーくー』






「サヨナラはこれまでも、これからも絶対せん。会いに行くから待ってれ」








サヨナラ満につき
(君との交際、続行OK?)






(title by tiptoe)