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「あー、暑いさー」

「こう暑いとなーんもしたくないさー」


とある日の比嘉中テニス部部室
早乙女が出張ということもあり部活はオフ
だが、甲斐、平古場、知念、田仁志は部室にておしゃべりに興じていた

沖縄に住んでいようが暑いものは暑い
4人はウダウダと文句を垂れながら、怠惰な時間を過ごしていた


そんなとき





バン!






扉が勢い良く開いた
もはや『開く』というより、ぶっ飛ばされる勢いだった
立て付けの悪かった扉は上側の金具が勢いで飛び、田仁志のおでこに当たった


「いでぇ!」


文句を言ってやろうと田仁志はドアを開けた人物を睨んだが、いつになっても文句は出てこなかった
いや、言えなかったのだ






「永四郎はいるか。」






そこに立っていたのはテニス部部長木手永四郎の彼女であり、生徒会長を務める星夜名前
この部の頂点に立つ木手すら土下座をして許しを請うほどの沖縄武術の達人
比嘉中の頂点に君臨する彼女が今、ウチナータイムに飲まれつつあったテニス部部室に降臨した



部室の温度が2度下がった




「お、おう、名前、何かあったんばぁ?」


甲斐が反応するが、名前は真正面を見つめてもう一度口を開く


「永四郎はどこだ。」


再び3度、温度が下がる
思わず上着を探してしまうくらい部室は寒々としていた


「今日は部活が休みだからてっきり名前とデートに行ったかと思ってたさー」


平古場が首を傾げる


「行ってない。探してるところ。凛も裕次郎も知らないんだね?」

「「お、おう」」


凄まれて思わず身を引く二人
そして名前は目線を残りの二人に移す


「寛と慧は?」

「わんは知らんさー、ずっとお菓子食べてたからなー」

「そう。食べすぎには注意しなよ、慧。んで、寛は?」

「少し前に見た。ただ、何かから逃げるみたいに走ってったから声はかけれてないさー」

「その『何か』は『私』だ。どこで見た」

「わんが見たときは資料室から飛び出したところだったさぁ」

「・・・」


名前が考え込む


「ぬうがあったんばー?」

知念が質問する
名前はゆっくりを口を開く


「今日何の日かわかる人は速やかに挙手」


この言葉に4人は顔を見合すも首を傾げる
しかし、この中で1人だけ顔を上げた人物がいた


「俺わかったさー!」

「はい、凛」


平古場だった


「今日って確か永四郎と名前の記念日じゃなかったか?2年かりゆしー」

「凛…!」


名前は勢い余って平古場に抱きつく


「うぉおおあ!?ちょ、名前!こんなとこ永四郎に見られたら、わん殺され…「何してるんですか」


ここで登場、木手永四郎
その姿を瞳にとらえた平古場は顔面蒼白
しかし、名前は涼しい顔だった


「永四郎」

「は、はい」


ただ名前を呼んだだけなのに、部室の温度はどんどん下がっていく
名前に抱きしめられた平古場もその気温の変化を感じ取り、ますます青くなる


「何か言うことは?」

「あ、は、はい…、記念日を忘れていて誠に申し訳ありませんでした。どうお詫びすればいいかわかりませんが」


木手は小さな箱を手渡した


「まあ中学生なのでこのようなものしか買えませんでしたがよければ受け取ってください。結構前から準備していたんですが最近部活ばかりで・・・言い訳にはなりませんね、どうぞ」

「・・・?あ、これ・・・」


イルカがモチーフのネックレスだった
イルカの部分が硝子細工で出来ており、透き通っていてとても綺麗だった


「以前、水族館に行ったときに欲しがっていたでしょう?その時は我慢なさい、と言いましたが俺が名前に買いたくてそう言ったんです」

「うそ、覚えてたの?」

「覚えていた、というより、その時点でプレゼンとするつもりでしたので」

「うわー!うわー!」


名前は大興奮で跳ね回る
いつもクールな名前が時折見せる無邪気な姿
これが木手を虜にしている名前の姿であり、テニス部員もそれは重々承知している






『(あの名前は反則さー…)』



ついついその姿に目が奪われ、のちのち木手から制裁を食らう


「つけてもいい?」

「ああ、俺がつけてあげます」

「ふふ、ありがと」



そして名前の首元に輝くネックレス



「生徒会長が校則違反ってダメだねー」


そういう名前だったがとても嬉しそうに笑っていた


校則、といえばやはり風紀委員
平古場はヘラっと笑いながら口を開いた


「裕次郎も指輪、首からぶら下げてるし、お守りみたいなもんだろー、セーフセーフ」


木手もこの提案に『珍しくいいことを言いますね』と褒めた

結局、木手と名前のなんともいえない痴話喧嘩は幕を閉じ、その日は仲良く二人で帰った










無論、毎日毎日ラブラブしているわけはなく、ちょっとでも名前の逆鱗に触れれば容赦なく鉄槌がくだる
その場合は8割方テニス部も巻き添えを食らう



そして今日も






「コロネェエエ!!!アメリカンコッカースパニエル!!!ハ●ルもどきぃ!!!死神ィ!!!デブゥウウウ!!!」


名前のドスの聞いた怒鳴り声から逃げるメンバー
そしてそれを追いかける名前

巻き込まれないように、と一般の生徒達は怯えながら身を隠す



しかし、名前の首元には 綺麗な硝子細工のイルカが太陽の光を反射させ、微笑んでいた







イルカ色注
(永四郎!止まらねばこのイルカちゃんを極刑に処す!)
(縮地法に対応できないからって卑怯ですよ名前!)
(永四郎が言うセリフじゃないよね)