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暗殺という仕事は決して終えてから気分が爽快とかそういうものではなかった。
しかし、パッショーネ暗殺チームには一段と笑顔が増えた。
新しいメンバー『ナマエ』
彼女の存在は、冗談抜きで暗殺チームの太陽だった。
つらい任務でも、彼女が“おかえり”と一言添え、ホットミルクを差し出してくれる、そんな毎日が幸せだった。
人の命を殺めて来たくせに、帰ると“幸福”が待っているというのは矛盾に満ちた生活だった。
それでもただ、ただその平穏で幸せな時間を彼らは守りたいと願った。
幸福の女神が来て、2か月が過ぎた頃―――
「ん…」
白を基調にしたやけにメルヘンな部屋は完全にリゾットのセンスによるものだがナマエは気に入っていた。
起きると太陽光を反射し、毎日気持ちよく目覚めれたからだ。
しかし、今の時刻は夜中の2時。
いつも輝く白い部屋は、冷たい闇に包まれていた。
「のど乾いた…」
簡易冷蔵庫を開けるが、残念ながらお望みのミネラルウォーターはなかった。
横に目をやると、眠る前に飲み干した空のビンがゴミ箱に捨てられていた。
「あれで最後だったっけ…」
ナマエは目をこすりながらラウンジへと向かった。
一方ラウンジでは、珍しくチーム全員が揃い、任務の話をしていた。
メンバーは全員合わせて9人、また、今回の暗殺対象もなかなかないほど多い8人だった。
しかし、ソルベとジェラートは二人で1つ、つまり
「お、おれが一人で行くんスか…?」
「ああ」
ペッシが一人での初任務ということになった。
一番年下でまだ殺人経験はない。
いつもプロシュートのあとに付き、なっているのかなっていないのかわからないサポートをしてきた。
そんなペッシのデビュー戦だ。
「安心しろ、この男はスタンド使いじゃあない。お前のビーチボーイで心臓を抉れば終わりだ」
プロシュートの励まし虚しく、ペッシは肩を落とした。
もしスタンド使いがいたらどうしよう、一人で戦えるのか。
不安だけが頭を埋め尽くす。
その時だった。
「…ナマエ?」
メローネがドアに向かって今は寝ているはずの女神の名を呼んだ。
それに答えるようにゆっくりとラウンジの扉が開く。
扉の前にはもちろん名前を呼ばれたナマエが困ったような笑みを浮かべて立っていた。
「すみません、聞くつもりはなかったんですが…のどが乾いてしまってミネラルウォーターを、と」
「そ、そうか」
珍しくリゾットも動揺する。
当たり前だ。
普段ならば事務所内でしている任務命令、しかし今回はターゲットも多いことからラウンジで行い、いつも以上に警戒していたはずなのに。
おそらく彼女の存在がなじみすぎたのだろう。
ナマエはそそくさとキッチンに入り新品のガスなしミネラルウォーターを手にした。
“口外はしません”そう言い残しラウンジを去ろうとドアノブに手をかける。
「ナマエ」
彼女を引き留めたのはペッシだった。
ひどく怯えた顔をして彼女を見つめる。
「ナマエは、人を殺したことある?」
あまりに脈絡のない質問に一同はペッシを睨みつけた。
しかし、ナマエは動揺した様子も見せず、再びラウンジの真ん中に引き返した。
「以前、ペッシくんに話したあれ、覚えてますか?」
「…うん…あれって…」
「ええ、たぶんもうわかっているとは思っていたんですが、黙っていてくれてありがとうございました。話す時が来たみたいですね」
ナマエは長くなるから座ってください、と皆を座らせた。
「ナマエ…」
メローネが一人、心配そうに彼女の手を握った。
「メローネ、あなたはつくづく勘が良い、賢い人ですね。いつもありがとうございます」
優しく彼の髪に唇を落とし、そのままナマエも腰かけた。
メローネは相変わらず、母に寄り添う子どものようにナマエの手を握ったままだった。
「まあ、確認として、ここの皆さんはギャングの暗殺部隊という認識でよかったです?」
問いかけにリゾットがうなずく。
「じゃあ、うーん…簡単に言うと、」
『私は貴方たちと同業者です』