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琴嶋の始末は蚊を殺すより簡単だった。
明け方を狙うつもりだったが、ちょうど繁盛している騒がしい深夜に店の裏口に行くとタバコを吸っているやつを見つけた。
中にいてもさしてやることのない人間なのだろう。
ここらへんに良いキャバクラはないか、と質問してみれは出るわ出るわ“ロリコン”を対象としたキャバクラの名前。
彼もまた、過去に罪を、名前に消えない傷を負わしたことを武勇伝のように語った。
「もう一回だきてぇなぁ?そろそろその子も20越えてるだろうけど、すげぇ可愛かったから今もぜってぇカワイイわ」
「そうだな。とても可愛いし、とても綺麗だよ」
「え?」
“カチ”
先ほどネクタイが酷く曲がっているといい、その歪みを直した時に爆弾に変えた。
簡単だった。
店の裏には防犯カメラもなければ人も通らない。
ゴミクズがただ集まるだけの空間に私も一つ、ゴミを捨てたようなものだった。
「遅くなったな」
私は深夜の繁華街の雑踏に顔を顰めながら愛すべき彼女が待つ、静かな我が家へと歩みを速めた。
久々の休日。
今日は彼女が前々から行きたいと行っていた動物園に行くことにした。
30を越えて彼女と動物園なんて思ってもみなかったが、存外に面白い。
まあ、動物もさることながら、その動物たちに興奮する名前が見ていてとても幸せだった。
「吉影さん!見て下さい!ライオンです!」
「そうだな」
「眠そうですね〜」
「夜行性だからな」
…彼女はこんな会話で果たして楽しんでくれているのだろうか。
不安になってくる。
「吉影さんといるとすごく楽しいですね、なんというか心が穏やかになります」
まるで
そう、まるで私の心を見透かしたように、名前はそう微笑んだ。
きゅ、とか細い手で私の手を掴み、その滑らかな指を絡めてくる。
これだけで多少の前かがみを強いられるくらいには欲情してしまう。なんとも情けない。
「次はカバ見に行きましょう!餌やりの時間らしいです!」
「カバ」
「はい!ヒポポタマスです!」
あまりに嬉しそうにするので、まったく、微塵も興味がないカバにでさえ嫉妬してしまう。
「吉影さんっ!ほらほら、早くっ!」
「ああ、今行くよ」
でも、やっぱり私を見てくれる君は何より愛おしいよ。
しっかり夕刻まで動物園を満喫した彼女はふれあい広場ですっかりウサギの虜になってしまい“いつか飼いたいです”なんて言いだした。
ウサギにまで嫉妬してしまいそうで正直怖い。
家に帰って、彼女を先に風呂に入らせる。
その間に今日撮った写真を見て思わず息が漏れる。
こんなに幸せなデート、今までしたことがない。
確かに今でも手首に対する性的興奮はある。
しかし、それ以上に名前に対する思いが強いのだ。
よもや自分が生きて動く人間の女性を愛する日が来るとは思わなかった。
「お風呂お先にいただきました〜!あ!もう、吉影さん今日の写真先に見返しましたね?」
「すまない、ついね」
「もー…」
さほど不機嫌そうでもない表情で、名前は笑った。