オタク流口説きの作法/土妙




※トッシーが痛々しいことになっています





親指がすばやくメール画面に文字を打ち込んでいく。
その速さは、少し前の自分からは想像できないくらいだ。
自嘲に近い笑みを浮かべながら宛先を一瞥し、送信ボタンを押して土方は携帯を閉じた。

(――我ながら完璧だ)

袖のないGジャンの胸ポケットに手を伸ばしながら、土方の目に鋭い光が宿る。

ヤツを成仏させる算段は整った。
対抗勢力の弱体化・戦力の増強・統率力の強化。
さらにプライドをかなぐり捨てて、情報やグッズの収拾に明け暮れた日々。
ここ数ケ月の苦労に思いを馳せた土方の手の中で、ぐしゃりと煙草が握りつぶされる。

(それももう少しの辛抱だ‥!!)

その日が来るのをどれほど待ち望んだか。
打てる手はすべて打った、後は舞台が整うのを待つだけだ。
込み上がる笑みを抑え込みながら、再度煙草を取り出そうとした時、土方の背中に軽やかな声が掛けられた。

「‥土方さん?」

土方の背中がギクリと強張る。
その声の主に、土方は今の自分の姿を断じて見られたくなかった。
そのために市中の行動には細心の注意を払っていたのである。

「土方さんでしょう?」

声と共に近付いてくる足音に土方の顔が強張る。

「やっぱり。今日はいつもの隊服じゃないんですね」

恐る恐る目線だけで振り返った土方に気づいた妙が微笑むと、一瞬にして土方の頭の中が真っ白になった。

「‥萌えッ」
「‥はい?」

土方から洩れた小さな叫びに、妙は怪訝そうに首を傾げる。
それを見た土方がふるふると震えだした。

「お妙氏萌え!萌えでござる!!テラ萌えェェェ!!」

響き渡る自分の叫び声で土方は我に返った。

「え、ちょっ‥、どうしたんですか土方さん」

自分を見て戸惑う妙に、一瞬にして全てを悟る。

(アイツ、一瞬の隙を突いて出てきやがったァァァ!)

何という失態‥!
恥ずかしさと居たたまれなさに苛まれて、土方は片手で顔を覆った。

(しかも妙に対して萌えだと‥!?二次元にしか興味を持たないアイツが!テメェの萌えはトモエちゃんとやらだろトッシィィィ!!やっぱ俺の人格なのかストライクゾーンも同じなのか!!)

‥って嬉しくねェんだよォォォ!!
心の中に吹き荒れる嵐に翻弄され続ける土方に、妙はじりじりと後退りながら声を掛けた。

「あの‥何か大変そうですね。忙しいところ引き留めちゃって、ごめんなさい」

その声に土方が顔を上げる。
ビクリと妙の肩が震えるのを見て、土方の頭に最高の打開策が閃いた。

「‥お妙、氏」
「氏!?」

目を見張る妙に、土方の口の端が上がる。

そう、これは非常事態なんだ。
別人格に乗っ取られているんだから無理もない。
だからいつもと言動が違っていても仕方ないだろう、不可抗力だ。

逃げようとする妙の肩を引き寄せて、土方はなるべく安心させようとぎこちなく微笑んだ。

「そんなに怯えないで、お妙氏‥悲しくなってしまうよ」

耳元で囁くと、パッと赤くなった頬が目に入る。

「どうしたの土方さん、何かいつもと違‥っ」
「僕は俺で、俺は僕なんだよ」
「えぇ?」

諦め悪く土方から逃れようとする妙の手を握り、土方は目を細める。

「‥二次元なんか目じゃないでござる」

マジ萌え、と囁きながら、土方は妙の頬に口付けた。





一時のテンションで悪ノリしたらこうなった。
反省はしている。
トッシー、悪かった。
楽しみすぎた^^^^^^←


(090507)



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