黒髪に撃沈/学生鴨妙




静かな教室で二人きり。
普段なら心地良いその空気が今は重苦しく、押し潰されそうに感じた。

「どうしたの?伊東くん」

何かあったの?と心配そうに覗き込んできた志村さんに、前以て用意していた言葉は石のように咽喉で固まってしまう。

「‥昨日、君と『彼』が一緒にいるのを見かけたんだ」

ようやく絞り出した言葉に、志村さんは目線を落としてしまった。
瞳を隠してしまった長い睫に胸の奥が軋む。
あの時に見てしまったアイツの顔が、まるで僕を牽制するかのように脳裏に浮かび上がった。
瞼にこびりついて離れないその顔は、遠目にも分かるくらい赤く、らしくない眼差しをして彼女を見つめていた。
その様は、常の『彼』とはあまりにかけ離れていて滑稽ですらあったが、ちっとも笑えず、また目を逸らすこともできなかった。
その時感じた言いようのない焦燥感が、また僕の背筋を震わせる。

あぁ、なんて忌々しいんだろう、苦しくて仕方がない。
目が眩むほどのこの感情は、―――

「‥ねぇ、志村さん」

俯いてしまった顔にたまらなくなって、気付いた時には彼女の頬に手を伸ばしていた。

「君は『彼』のものになったのかい‥?」

さらりと流れる髪を梳き、柔らかな頬に慎重に手を添えると、美しい瞳がこちらを見上げる。
彼女の唇が美しい弧を描いた。

「私は誰のものにもならないわ」

私は私のものだものと呟きながら、そっと僕の手に触れて小首を傾げる。

「もしかして‥」

ふいにはにかんだ彼女の瞳に、一気に頭の中が真っ白になった。

「‥嫉妬してくれたの?伊東くん」
「‥‥‥っ、」

色付いた頬、彼女の瞳が僕を、指をくすぐる滑らかな髪が、あぁ僕は、こんな綺麗なものを見たことがない‥!

最後に認識したのは、早く再起動してねと笑う彼女の声と、僕の髪に触れた華奢な指先だった。
(伊東鴨太郎くん終了のお知らせ)





なんかごめん、鴨‥!
いじるのが楽しくて仕方ないんだ^^←
スイッチ入ったら、インテリヘタレはノンストップで強制終了するといい^^



(090213)



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