「ネ、そこのオネーサン」 気軽な口調で妙に声を掛けてきた青年は、月の下で無邪気そうに微笑んでいた。 妙もにっこりと笑みを浮かべて、塀の上に座る青年を見上げる。 「何か御用?」 ふざけた輩なら、即ぶっ飛ばす。 そう心に呟きながら、妙はさりげなく手提げを左手に持ち替えた。 「道に迷っちゃったみたいでさ」 青年は相変わらずにこにこしながら、小首を傾げる。 左肩に垂れていた、どこか見たことのある桃色のおさげが小さく揺れた。 「この辺に万事屋銀ちゃんっていうのがあるって聞いたんだけど、どこにあるの?」 その言葉に、妙は笑みを消して青年を見つめる。 青年は小さく肩を竦めた。 「アレ?笑顔が消えちゃったね」 青年の青い目がゆったりと細められる。 「もしかしてコワイの?俺のこと」 オネーサンには何もしないから大丈夫だよ、とケラケラ笑い声を立てる青年に、妙はクスリと笑みを零した。 脳裏に桃色の髪と青い目の妹分が過ぎり、そっくりなのねと胸の内でコッソリと呟く。 怪訝そうに見下ろしてくる青年に、妙は微笑みながら踵を返した。 「ちょっと、オネーサン行っちゃうの?」 「万事屋は向こうの方ですよ。でもこの時間だともう閉まっているから、明日にした方がいいわ、『お兄さん』」 ポカンとしている青年に小さく手を振って、妙はゆっくりと歩き出す。 「‥んー、何か調子狂っちゃったな〜」 少しづつ小さくなっていく妙の背中を見つめて、青年は首を傾げた。 しばらくカリカリと頭を掻いた後、ひょいと塀から飛び降りる。 「やっぱり、あのオネーサンに案内してもらおうっと」 あの侍や妹のことも知ってるみたいだしね、と呟きながら、青年は楽しそうに妙の背中を追って走り出した。 ※この後、志村邸に上がり込んで、姉上の卵焼きを食べて昏倒して、気付いたら朝だったとかいいよね、なんて思ったり(笑) (090130) |