「妙ちゃん」 玄関の引き戸を開けて声を掛けると、奥からパタパタと妙が出てきた。 「あら、いらっしゃい九ちゃん」 「‥これ、今年もお世話になったから」 九兵衛が持ってきた手提げを渡すと、妙は淡い笑みを浮かべながら眉を下げる。 「そんな、私の方こそお世話になったのに」 「ううん、僕が渡したかったから」 九兵衛が微笑むと、妙も今度は綺麗に微笑んだ。 「ありがとう。ねぇ、せっかくだからお蕎麦食べていかない?」 そう言いながら、妙は九兵衛の顔をのぞき込む。 「新ちゃんがとてもおいしいのを作ってくれたのよ」 「‥新八くんはいないの?」 「えぇ、今は万事屋の方にいるの。もう少ししたら、みんなを連れてこっちに来るんだけど」 妙の言葉に、九兵衛は急いで頷いた。 「お邪魔させてもらっていい?」 「もちろん」 さぁどうぞと笑顔で促す妙に、九兵衛ははにかんだ顔を伏せて慌てて草履を脱いだ。 「お蕎麦を食べたら、みんなで初詣に行きましょうね」 「‥うん」 うきうきと歩き出す妙の背中を眺めながら、九兵衛はこっそり心の中で新八に謝った。 (悪いな新八くん。でも、妙ちゃんと2人きりでご飯食べれる機会を逃すわけにはいかないんだ) ――来年も、君の傍でその綺麗な笑顔をたくさん見れますように。 (081231) |