みぃ、と自分の手に顔を摺り寄せてくる子猫を見て、少年は眼鏡の奥の目を見張った。 そっとやわらかいノドをくすぐると、子猫は目を細めて気持ちよさそうにされるがままになっている。 西に傾いた太陽が世界を朱く照らす中、少年は子猫の元にしゃがみこんだ。 「‥それ、こねこ?」 不意に掛けられた少女の声に、少年は顔を上げる。 さらりとした髪の少女の目が、少年の手元を見つめていた。 「‥うん、ここで鳴いてたんだ」 ふうん、といいながら少女も子猫の前にかがみ込んで少年の顔を覗き込んだ。 「わたしもなでていい?」 「いいよ」 少年がそっと子猫を抱え上げると、少女がおずおずと手を伸ばして子猫の頭を撫でる。 み、と子猫がかわいらしく鳴いて、少年と少女の目が輝いた。 「かわいいね」 「ね」 少年と少女は顔を見合わせてくすくす笑う。 子猫はくるりと大きな目で2人を見上げると、ぴょんと少年の手をすり抜けて土手を駆け下りてしまった。 「あっ」 「いっちゃったね‥」 残念そうに土手を見つめていた少年は、おずおずと少女を振り返った。 「ねぇ、きみはこの辺の子?」 少年の言葉に、少女は困ったようにかわいらしい眉をきゅっと寄せた。 「ええと、新ちゃんを探してたらわかんなくなっちゃったの」 「そう‥」 しばらく躊躇った後、少年はうつむいてしまった少女の手をそっと取った。 「ぼく、いっしょに新ちゃん探してあげるよ」 夕日を受けて飴色に輝いた少女の目が、さっきの子猫のように嬉しそうに細められた。 「ほんとう?」 「うん」 少年の色素の薄い髪がふわりと揺れる。 手をつないだ影法師が、朱く照らされた地面に長く伸びた。 (081231) |