子連れの奥様方や学生で賑う昼下がりのファミリーレストランは、喫煙席だけ妙に閑散としていた。 奥まった目立たない席に落ち着いた男2人は、お互いに可能な限り距離を取ろうとするかのようにふんぞり返り、そのくせ相手の腹を読もうと意識を尖らせていた。 「‥ったく、何の用だよ」 着崩したスーツと同じようなやる気のない声に、土方は眉間に縦皺を刻んで煙を吐いた。 「テメェが何を考えてるのかなんて、これっぽっちもわかりたくねェが」 ギロリと土方が睨み付けた先で金時が、はぁ?と欠伸をかみ殺しながら首を傾げる。 「お遊びの域を越えてきてんの、知ってるだろ」 「何の話だよ」 「『鬼ごっこ』、テメェと桂も噛んでるんだろう?」 土方の言葉に、金時はだるそうに目の前のメニューを眺め続ける。 「‥妙からか」 金時の言葉に答えず、土方は短くなったタバコを灰皿に押し付けた。 「来島だけじゃねェ。河上も動いてるぞ」 バサリとメニューを閉じ、金時はウェイトレスを呼ぶ。 「お姉さん、イチゴパフェお願いね」 へらりと笑う金時に、土方は小さく舌打ちした。 「この前、妙が倒れたのを知ってるか」 「‥‥」 「体調が悪かったってのもあるみたいだが、相手は来島だった。そして昨日は河上だ」 土方の言葉に、金時の顔から表情が消える。 「テメェら2人で、守りきれるとでも思ってんのか」 「サツは図体でかすぎて、小回りも融通も利かねーじゃん」 背凭れに凭れ、金時は熱のない目で土方を眺める。 「そこまで知ってるなら、妙の気持ちも知ってるんだろ?」 「‥‥」 「コッソリ叩き潰すしかねーと思わねェ?」 金時の目が、一瞬だけギラリと光った。 その目にある確信を抱きながら、土方は新しいタバコに火を点ける。 「‥俺が欲しいのは情報だ」 「‥‥」 「いつから始まった?拠点はもうつかんでるのか?」 途端に気まずげに視線を逸らせた金時に、土方は眉を顰める。 「オイ、」 「‥先週までの拠点なら、ヅラがつかんでるからそっちでやってくんない?」 「なるほどな。じゃ、このふざけた遊びが始まったのはいつからだ」 「パフェおせーなー」 とぼけた顔をしてウェイトレスを探す金時の顔を眺めながら、土方は考える。 ――この様子はどこかおかしい。 心当たりがあるんじゃないか? 考え込む土方の様子に、金時は居心地の悪さに身じろぎする。 ――ちょっと怖いんだけど、この刑事。 それにあの時、確かコイツらはいなかっ‥ 「‥テメェ、か?」 「はいィ!?何のことだよ」 わずかに裏返った金時の声に、土方の目に剣呑な光が宿った。 「妙の存在を高杉が知ったのは、テメェがキッカケだったんじゃねェだろうな」 「ばっ、おめ、違ェーよ!?俺はアレ、新八に頼まれて妙を迎えに行っただけだ!あんなとこにアイツが出てくるなんて誰がわかるか!」 「やっぱりテメェが原因なんじゃねーかァァ!!!」 「うるせー!俺だって不本意だったんだよォォ!!」 テーブルを挟んで、土方と金時はお互いの胸倉を掴んでにらみ合う。 わかってんだよ。 テメェだって俺と同じなんだろう? あんな声で俯かれたら、何も言えなくなっちまう。 ――だからこそ、絶対にテメェには渡さねェ。 普段は死んだ魚みたいなくせに、鈍い殺気を燻らせている金時の目を土方は思い切り睨み付けた。 (081130) |