更衣室では、少女たちの声がそこかしこで弾けている。 その中でてきぱきと着替えていたりょうは、控えめな妙の視線に気付いて首を傾げた。 「どうしたの?妙」 「なっ、なんでもないわ」 「そう?」 りょうが着替え終えてロッカーを閉めても、妙は中途半端に着替えたまま項垂れている。 「ちょっと、どうしたのよ?もしかして、気分でも悪いの?」 りょうが心配して妙の顔を覗き込むと、妙は小さく首を振る。 その隣で、九兵衛が妙の頭を撫でながら微笑んだ。 「妙ちゃん、僕らはまだまだ第二次成長期にいるんだから、勝算はまだあるよ」 「勝算って何の?」 りょうが再度首をひねると、妙があわてて口を開いた。 「きゅ、九ちゃんたら‥!」 その狼狽えぶりに、九兵衛の目が和む。 「気にすることないのに。妙ちゃんはかわいいな」 「ち、違うわよ!りょうちゃんと同じ身長なのに何で大きさが違うのとか、そんなことないから!」 顔を赤くしてまくしたてる妙は、自ら墓穴を掘ったことにも気付かぬまま、慌ててブラウスを手に取った。 その様子を見て、りょうと九兵衛は小さく笑う。 「なんだ、そんなこと?」 「そ、そんなことじゃないわよ!だって、りょうちゃんも九ちゃんもちゃんと進化してるじゃない!神楽ちゃんだって、確実に日々成長しているわ!私、もしかしたら何かの病気なのかも‥!」 必死になって言い募る妙に、神楽が飛びつく。 「姐御、病気なの?医者呼ぶアルか??イヤヨ姐御ー!」 早くも半ベソかきそうな神楽の頭を撫でながら、九兵衛が大丈夫だよ、と笑う。 その隣で、りょうも苦笑しながら妙の背中を叩く。 「そうよ、妙。大体、アンタは食が細いじゃない?もっと食べて、元気にしてれば自然に育つって!」 「そ、そうかしら」 「きっとそうネ!姐御、早速今日の帰りにケーキ食べに行くアル!」 良い感じにまとまりかけた雰囲気を、端から突き崩したのは阿音だった。 「甘いわねェ。努力だけでは、どうにもならないこともあるのよ」 「ちょ、ちょっと阿音‥!」 慌ててりょうがとりなそうと妙を振り返ると、妙はまた俯いてしまっていた。 横で九兵衛と神楽が一生懸命慰めているが、どうやらその言葉も耳に入っていないらしい。 普段なら、笑顔全開で且つ二倍にして切り返してくる妙が泣きそうになっているのを見て、阿音も狼狽えてりょうに小声で囁いた。 「ちょっと、マジなの?アレ」 「マジよ。あんなに思い詰めてるとは、私も思わなかったけど。せっかくフォローがうまくいってたのに、どうすんのよ」 「わかったわよ、悪かったわよ‥とりあえず任せてちょうだい」 そう言うと、阿音は不敵に微笑んで、妙に向き直った。 心配そうに張り付いている九兵衛と神楽を引き剥がすと、おもむろに妙の胸に手を添える。 「でもあんた、形はいいんだから。もっと頑張れば…」 「やっ!ちょっ、阿音ちゃ…!」 真っ赤になって身体を引く妙に、りょうも畳み掛けるようににっこり微笑んで、メジャー片手に妙に迫る。 「そうよ〜!それに身に付けるもので、結構変わったりするわよ?」 「りょ、りょうちゃんまで!何、そのメジャーどこから持ってきたのっ!?」 「姐御、確かにブラは重要って聞くアルヨ。このオネーサン達に任せるヨロシ」 「いや、それ以上は妙ちゃんに触るな!妙ちゃんは恥ずかしがり屋さんなんだぞ!これ以上のプレッシャーは‥!!」 一方、大騒ぎの女子更衣室と隣接した男子更衣室の一角でも、一部の男たちが大騒ぎしていた。 「オイ記録係!情報はすべて書き留めとけ! 『形はいいんだから』を絶対忘れんじゃねーぞ!!」 「あいつら、男のロマンをわかってねェよ!!その恥じらいこそが大事なのに!」 「何だよ、フォローなら俺のこのゴールドハンドを使ってくれりゃーいいのによォ」 「甘ェなァ‥そこはもうちょっとこう、焦らすのが定石だろ」 「「「何のプレイ!?」」」 「この壁の向こうには、おりょうちゃんもおるのか〜パラダイスじゃな!ワシも女になりたいのォ」 「オーイ衛生係、近藤さんが鼻血吹いて昏倒しやしたァ」 「仕様のないヤツだ。エリザベスを使うまでもないな」 「‥ちょっと、何やってんですか。アンタら」 「ゲッ、新八!何でもねェ、何でもねェよ!?盗み聞きとガハァッ」 「きっ、気にすんな!おっ、それよりもよ、予鈴鳴ってんじゃねェか?急いだ方がいいぜ、眼鏡!!」 猛烈な勢いで着替えると、銀時と土方は新八の腕を掴んで更衣室を飛び出した。 そしてその日の放課後、男たちの議論はいつにも増してヒートアップしたとかしないとか。 (080323) |