役割分担




黒板を背に、銀髪の男が居並ぶ男たちを見据える。
普段は空き教室特有の、少々ほこりっぽいノスタルジーに満ちている空気が、ピンと張り詰めている。
その場にいる誰もが、真剣だった。

「‥じゃ、これで異論はねーな?」

銀時が問うと、応、と教室の空気が震えた。

「まァ理由はどうあれ、こんだけ人数集まっちまったんだ。
キッチリ役割分担しといた方がいいだろ」

その言葉に、隣に立っていた土方が腕を組んだ。

「てめーが会長ってのァ気に食わねーが、この場合は妥当だな。
監督の指名にはどっちみち逆らえねーし、せいぜいしっかり顧問から活動費せしめてこいや」

「言われなくてもそうするっつーの。てめーもきっちりフォローしろや副会長。
おいヅラ、絆創膏多めに準備しとけよ。ターゲットと護衛役は強敵だからな」

「ヅラじゃない桂だ。任せておけ、エリザベス絆創膏は衛生係の責任をもって確保しておく」

頷いた桂は、次いで立ち上がる。

「あまり志村さんを困らせるでないぞ。志村さんは、今のままで十分なスタイルバランスを持っているのだからな」

「その通りだみんな!!俺達は静かに志村さんを見守るのが使命なんだからな!!」

ガタッと椅子を鳴らして立ち上がった近藤に、銀時の投げたチョークが命中した。

「お前は見守り過ぎだろ!ストーキングは程々にしとけ」

「俺は突撃係だぞ!身体を張って情報を得るんだ、我が人生に悔いなし!!」

その言葉に、高杉が低く笑う。

「情報を得るったって、具体的な数値を把握するのは至難の技だろ?それに見るだけじゃつまらねーじゃねェか」

一理ある、と頷く銀時や沖田たちを余所に、土方が高杉を睨みつけた。

「あァ!?志村に手ェ出したら殺すぞてめェ!
それに近藤さんなめんなよ。伊達に毎日ストーキングし‥やっぱ近藤さん、俺もストーキングはほどほどにしといた方がいいと思うわ」

「フォローになってませんぜ土方さん。近藤さんはなァ、女子更衣室の会話を聞けるポイントを知っているんでさァ!」

マジでか!?と一同がどよめく(一部ドン引く)中、近藤は誇らしげに胸を張る。

「《逝ってらっしゃい》イベントは、3回に1回の割合で回避できるぞ」

「‥それほとんど回避出来てねーじゃん」

ボソリと突っ込む銀時を無視して、沖田が思案顔になる。

「確かに、具体的な数値を得るのは難しいでしょうねェ。見たところ‥Aってところですかィ?ありゃ」

沖田の言葉を聞いて、高杉がフフンと笑った。

「アイツのトップとアンダーの差は‥12cmってとこかァ」

「!なん‥だと‥!?」

「てめェ、なんでそこまで言い切れる」

土方の詰問に、高杉は眼帯で覆われた左目を軽く撫でる。

「俺にはこの、左目がある。最も危険な測量係を引き受けたのは伊達じゃァねェ。ちなみに誤差も基本的に無ェ」

「‥何その中2設定」

「さすが鬼●郎」

「中2でも鬼●郎でもねェっつーの」

土方と銀時の突っ込みをまたしても鼻で笑い飛ばして、高杉は不敵に笑う。

「信じられねェなら、実際に触って確かめてみたらどうだァ?」

その言葉に真っ先に反応したのは、近藤だった。

「よーし、じゃあ俺ちょっと確認してくるわ!!」

「待て近藤さん!オイ総悟、山崎ィ!近藤さん止めろ!!」

「「合点」」

沖田が素早く足払いをかけると、そのまま近藤が派手に転がり、机の角に頭をぶつけて沈黙した。
それを山崎がため息まじりに引きずって、窓際に寝かせる。

「トップ差12cmですかィ‥その言葉を信じるなら、やっぱ何か援助した方がいいですかねィ」

沖田が何事もなかったように言うと、坂本が楽しそうに口を開いた。

「そうじゃのう、最近はサプリメントとかいろいろ出ているからな〜でも最初は、無難なものにしといた方がええじゃろ」

「あー納豆とかか?確かイソフラボン的なものが良いっていうよな」

全蔵が応えると、沖田が銀時に向かって手を上げる。

「会長〜この場合のプレゼントって、やっぱTMMからってことでいいんですかィ?」

「おぅ。一応会費もあるが、顧問から巻き上げた活動費によっちゃあ、結構良いものも買えると思うぜ」

「無駄遣いすんじゃねーぞ、総悟」

ジロリと睨んで釘を刺してきた土方に、沖田はしれっと言い放った。

「もちろんでさァ。映画は月に2回にしておきやす」

「論外に決まってんだろ」

言下に却下した土方に、銀時が胡乱な目で問いかける。

「オイ、本当にコイツに会計係任せて大丈夫なのかよ」

「志村のために使うモンだから、逆に安心だと思ったんだが」

そんな2人に、坂本と全蔵が快活に笑う。

「大丈夫じゃ!ワシと全蔵がチェックするぜよ!」

「会計・企画・差入はプレゼント部隊だからな。任せろ」

「ですぜィ☆」

爽やかな笑顔で決めた沖田に、銀時と土方はため息をついた。



(080322)



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