鮮やかな水色に、伸びやかに咲き誇る桜の花は満開で。 大きな白い犬にじゃれ付く桃色の髪と、引きつった顔で全力疾走で逃げる、江戸一番のツッコミ達の声がのどかに響く。 隣には、好物のアイスを口に運びながら溶けそうな笑顔を浮かべている、大人びた少女。 最後のまんじゅうに手を伸ばしながら、ぽろぽろ零れていく花びらを目で追いかける。 前にも白い切片が舞い降りる中、こうしてまんじゅうを頬張ったことがある。 薄墨色の空から絶え間無く落ちてくるそれの冷たさが、ぼんやりと脳裏を流れていった。 同じような白い切片に降られているのに、呑気さが段違いだ。 片や雪、片や桜なのだから、当たり前なんだけれど。 こしあんをゆっくりと味わいながら頭上を見上げると、そこにも雪崩落ちてきそうな満開の桜。 視界を埋める可憐な花びらが、水色の空にくっきりと力強く映える。 隣で少女が笑ったのか、小さく空気が震えた。 次いで、本当に綺麗と呟く小さな声。 静かに微笑む少女は、見上げている桜と良く似ている。 ピンと伸びた、花びらと背筋。 儚く可憐なのに、どこか力強くて潔い。 目を閉じると、まぶたに感じる春の空気が心地よい。 耳に響くのは、桃色とメガネと白色の三重奏。 そして優しく髪を梳く華奢な指に、ゆっくりと意識を手放した。 さらさらと、桜と一緒に時が流れていく。 ――今日も、良い日だ。 《おまけ》 不意にドォンという爆発音と共に、火薬の匂いが漂った。 遠くから少女の名を叫ぶ声が響くと同時に、隣から静かに漲った殺気が漂ってくる。 そして一拍置いて漂う紫煙の匂い。 仕方なく目を開けて、ため息まじりのあくびをしながら腰を上げた。 (眉間にシワを寄せていてもちょっとだけ口元が緩んでるのは、この満開の桜と青空のせいってことで) (こういう賑やかさも、嫌いじゃねーんだわ) (080405) |