ストロベリーの逆襲/学生銀妙




校庭からはボールの跳ねる音やにぎやかな笑い声が響いていたが、こっそり鍵が外された人気の無い屋上では沈黙が満ちていた。
微妙な距離を開けて座っている妙は、先ほどから銀時の方を見ようともしない。
銀時がちらりと妙に視線を向けると、いつものように綺麗に伸びている背筋が目に入る。
その様が小憎らしいのに、思わずラインを目で辿ってしまう自分が忌々しくて、銀時は目を逸らしてポケットを探った。

「‥お前さァ、なんか俺に言うことあるんじゃね?」

最後の一粒を探り当て、包装されているビニールを剥がしながら平坦な声で質す銀時に、さっきから空を見上げたままの妙は小首を傾げた。

「さぁ、思い当たることが何一つとしてないわ。それよりも、坂田くんこそ私に言うことがあるんじゃないかしら?」

にっこりと妙は微笑む。
浮かべた笑顔は完璧だったが、鈴のような声には不穏な気配がわずかに滲んでいた。
それを察した銀時は、わざとらしく首を捻る。

「さァ、何一つ心当たりがねーんだけど」
「‥‥」

ストロベリーチョコの甘い匂いが徐々に広がっていく中、お互いの様子を探るような沈黙が降りる。

その沈黙が苛立たしくなって、銀時はガシャ、と音を立ててフェンスに寄りかかった。

「お前こそ、本当に心当たりがねーの?この前なんて、思い切り人の足蹴ったりとかしてくれたじゃん」

ジロリと妙に視線を移すと、笑顔の妙が振り返る。
カーン、と試合開始のゴングが鳴ったような気がして、銀時は妙に向き直った。

「あれは坂田くんの自業自得でしょう?とぼけてるつもりなのかしら」
「何の話だよ」

わずかに低くなった銀時の声に反応するように、妙の声に鋭さが増した。

「前からちょっと怪しいと思ってたのよ。坂田くん、猿飛さんのこといつも見てるじゃない。本当は私じゃなくて、さ‥」
「オイ、ちょっと待て。俺がいつさっちゃん見てたって?」

言葉の途中で遮ってきた銀時に、妙から笑顔が少しづつ消えていく。

「ごまかしても無駄よ、猿飛さんが奇襲を掛けてくる時とか、授業中とかにこっそり見てるじゃない。特に胸の辺りとか」

代わりに開き始めた瞳孔と思いがけない言葉のジャブに、銀時は思わずたじろいだ。

「なっ、何言ってんのお前、奇襲の時は正当防衛上仕方ねーだろ!!授業中なんて、俺ほとんど寝てるし!大体、胸に目が行くのは健全な思春期男子の正常な反のウグハァッ!!」

銀時に強烈な右フックを繰り出した妙は、赤い顔をして叫びだす。

「どっ、どうせ私は猿飛さんほど立派じゃないわよ!サイテーだわ、さか‥」
「あーもう、めんどくせーな!!」

妙に最後まで言わせたくなくて、銀時はストロベリーチョコを妙の口に押し込んだ。

「‥っ!?」

突然口に放り込まれたチョコレートに、妙はきょとんと目を瞬く。
チョコを包んでいたビニールをぐしゃぐしゃと丸めながら、銀時はそっけなく呟いた。

「その‥なんだ、これで仲直りってことで」
「‥‥」

ちらりと妙に目をやると今度は俯いてしまっていて、銀時は頭を掻いた。
さっきとは違う沈黙に、今度は何やら落ち着かない気分になる。
妙の肩に流れ落ちた髪を見つめながら、弁解がましく言葉が零れた。

「ちなみに、他にはこんなことやらねーから」
「‥そ、そう」

ようやく返ってきた小さなそっけない返事に、銀時は妙の肩を掴む。

「‥かわいくねーな。やっぱ半分もらお」
「‥‥!」

驚いたように銀時を見上げた妙の顔は赤く染まっていて、どきりと銀時の耳元で心臓が跳ねた。
騒ぎ出した胸の鼓動を必死に押し殺しつつ、妙に顔を寄せる。

口の中に広がったストロベリーチョコは、眩暈がするくらい甘かった。




《おまけ》

「‥ちなみにさァ、この前多串くんと歩いてたのを見たんだけど」

「え?あれは化学室の掃除当番だったんだけど‥確か神楽ちゃんが先に行ってて、沖田くんはサボりだったのよね。あとで神楽ちゃんとシメたの」

「へぇ〜‥じゃ、伊東から受け取ってたのは?」

「本を貸してもらったのよ。伊東くん、おもしろい本をたくさん持ってるのよ〜!」

「ふーん」

「‥ふふ」

「なんだよ」

「安心した?」

「別に?焦ってるとか感じたことないし」

「顔が赤いわ」

「お前こそ人のこと言えねーだろ」

「困ったわ、これじゃ教室に戻れないわ」

「仕方ねーな。じゃ、次の授業はここで自習ってことで」




※ストロベリーチョコはチロ_ル_チョコだったり(すごくどーでもいい情報)


(081023)








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