ほかほかの肉まんを目の前に、妙は上機嫌で急須を傾ける。 お気に入りの湯呑みはとっておきの緑茶で満たされ、妙はコトリと急須を置いた。 「いただきます」 両手を合わせると、妙はにこにこしながら肉まんを口に運んだ。 一口かじると、中の餡の熱さに、あわててはふはふと息を送りながらゆっくりと咀嚼する。 「あれ、オネーサン何食べてるの?」 突然現れた来訪者に、妙の目が見開かれた。 固まっている妙を余所に、神威はしげしげと妙の手元を見つめる。 至福のお茶の時間をぶち壊すと同時に手元の肉まんに興味を示した神威に、妙は早く撃退せねば、と焦った。 「わ、いい匂いだなぁ」 焦る妙を知ってか知らずか、神威がおもむろに妙の手首を引き寄せる。 妙が抗議の声を上げようとした瞬間、ガブリと肉まんにかじりついた。 「………」 もぐもぐと口を動かす神威に、ようやく口の中の肉まんを飲み込んだ妙がにっこりと微笑む。 同時にその背後から、どす黒いオーラが滲みだした。 「ちょっと、いきなり人の家に来て何やってるんですか」 「んー、コレおいしいね!」 どす黒いオーラも、空気を読めない神威には何の効果もないらしい。 妙の手首をつかんだまま、再び神威が肉まんにかじりつく。 「………」 妙のこめかみに青筋が浮かんだ。 威嚇が通じないなら実力行使しかない。 ぐぐ、と神威につかまれている手首を動かそうとしたが、ビクとも動かない。 意地になって粘る妙をおもしろそうにチラリと見た神威は、妙の手にあった肉まんをすべて胃に収めると、にっこりと笑った。 「おいしかったー!もっとおかわりはないの?」 神威の言葉に妙の瞳孔が完全に開く。 そんな妙の様子に、神威はうれしそうに目を細めた。 「ここもおいしそうだね」 そう言って神威は妙に顔を寄せると、白い頬にかじりついた。 ピタリと固まった妙の身体に、神威が猫のように喉を鳴らす。 ベロリと頬を舐められた感触に、妙は我に返った。 「ちょっと、放しなさいって、ば…!」 手が動かせないなら足だとばかりに妙が腰を浮かせた時、盛大なため息と共に大きな手が神威を引きはがした。 「何やってんですか団長」 「やぁ阿伏兎。どうしたのこんなところで」 「どうしたのはこっちのセリフですよ、このスットコドッコイ。とにかくお嬢ちゃんの手を放してやりなさいよ」 「ちぇー」 ちぇー、じゃねぇよ!!と腹の中で毒づきながら、阿伏兎は妙を振り返る。 「すまねーなぁ、お嬢ちゃん。うちの団長が…」 「楽しみにしていた私の肉まんを全部食べちゃったんですけど、どう落とし前つけてくれるんですか?」 振り返った阿伏兎の顔面をアイアンクローでギリギリと締めあげながら、妙は笑顔で小首を傾げた。 おーと歓声を上げる神威に、怒りが滲んだ笑い声がこぼれる。 「ふふ、上司の不始末は部下が尻を拭うのよね?どこかの暴力警察24時の人たちも、部下が局長の後始末をしてるし…」 ね?と殺気を隠すことなく綺麗に笑った妙に、阿伏兎は両手を上げた。 「あー、もちろんそのつもりです」 「すごいネ阿伏兎、太っ腹!」 「黙ってろこのスットコドッコイ」 妙の掌が外された頬をゆるりとさすりながら、阿伏兎は居住まいを正す。 妙は気が済んだのか、湯呑みを傾けるとほぅ、と小さく息を吐いた。 「で、お嬢ちゃんは何をご所望なんですか」 「肉まんと、期間限定のダッツ全部です」 「俺の分も忘れないでね、阿伏兎」 ちゃっかり自分の分も追加してきた神威に、アンタも行くんだよ!と阿伏兎が腕を引いて立たせる。 その様子を見ていた妙が、そうそう、と阿伏兎を見上げた。 「そろそろ新ちゃんも帰ってくるから、新ちゃんの分もお願いしますね」 「はいはい」 「でもお兄さんの分は結構です」 「当然だな」 さらりと交わされたやりとりに、神威が不服そうに口を尖らせた。 「えー!何でかな、それちょっとひどくない?」 「団長はこれから会議でしょ、上から何回呼び出し掛かってると思ってやがるんですか」 「あーつまんないなー」 渋々歩きだした神威が、くるりと妙を振り返る。 「じゃーね、オネーサン。また来るからね」 「うちじゃなくて、いい加減に万事屋に行ってください」 「そうですよ団長、いつになったら妹さんと会うんですか」 「んーそのうち?」 ケラケラ笑う神威に、妙と阿伏兎は小さくため息を吐いた。 (100921) |