晴れた空に、ザッザッ、と落ち葉をかき集める音がのんびり響く。 「‥お腹空いたアル」 右隣でこぼれた小さな声に、妙は小さく笑った。 「焼き芋とかしたくなっちゃうわね」 「焼き芋!‥でも、芋がないネ」 ガッカリしたように神楽が肩を落とす。 じゃあ帰りにうちに寄る?と妙が微笑むと、間髪入れずに行く!と妙の両隣から声が上がった。 軽く目を見張った妙が振り返ると、上げかけていた手をそっと下ろしながら、九兵衛ははにかんだように俯いている。 その様子を微笑ましく思いながら、九兵衛に声をかけようとした妙の視界の隅で、ヒラヒラと音もなく葉が落ちた。 タン、と地面を蹴った妙を追うようにヒュン、と細い音が空気を切る。 スキップするように一歩前へ飛び、箒の柄を構えながら振り向くと、白い細いものが地面に数本突き刺さった。 「猿飛、止せというに!」 背後で制止する月詠の声を聞いて、妙は小さくため息を吐く。 「‥だと思った」 「妙ちゃん」 「大丈夫よ、2人ともちょっと待っててね」 「了解アル」 にっこりと微笑みながら、妙は勢い良く箒を一振りする。 ガキッという音と共にバラバラとチョークが落ちて行くのにも目をくれず、今度は箒の柄を勢い良く右に突き出した。 パシッという乾いた音と、チッ、と低い舌打ちが響く。 「相変わらずやるじゃない、志村さん」 妙が突き出した箒の柄を、真剣白羽取りの要領で止めたあやめに、妙の唇が綺麗な弧を描く。 「相変わらず暇なのね、猿飛さん。そろそろあなたも友達作ったら?」 あっ、作ろうとしてもできないのか〜と笑う妙に、あやめの口の端が吊り上がる。 「ふふ、お生憎様!友達なら間に合ってるのよ!それよりも」 あやめの手の中で、箒の柄がミシリと小さく音を立てた。 「いい加減に坂田先生に近づくの止めてくれないかしら?」 「またその話?私がいつあのダメ教師に近づいたっていうのよ」 「私が気付かないとでも思ったの?さっきの古文の授業で、あなた坂田先生に呼び出されてたじゃない!!」 「日直なんだから仕方ないでしょ!」 メキ、と妙の手の中でも箒の柄が音を立てた。 「落ちつかんか、2人とも」 妙とあやめが睨み合っているところに、月詠が歩み寄る。 「すまない、志村。止められなかった」 「いいのよ、慣れてるから」 「何そのツーカーな感じ!2人で共同戦線でも張ろうってこと?フフン、それほどの脅威だってことなのかしら、この私は!」 その言葉に同時にため息をついた妙と月詠を見て、あやめは受け止めていた箒の柄を弾いた。 反射的に体勢を立て直そうとする妙の眼前に、指に挟んだチョークを突きつける。 「猿飛!」 「妙ちゃん!!」 制止する声に、妙がうっすらと微笑む。 「猿飛さん、本当にいい加減にしてくれない?あのダメ教師なんて眼中にないって何回言ったらわかってくれるのかしら。あっ、もしかして日本語がわからないとか?」 あやめの目が剣呑な光を帯びる。 「国語は得意教科なの、私。それよりも志村さんの方が日本語が不自由なんじゃない?あっ、ゴリ系だったんだっけ?なら仕方ないわね」 チリッ、と交わる視線に電流が走った。 「…オイ今なんつったかもういっぺん言ってみろ」 「あら、耳まで遠いのかしら、ゴリ系は」 ふふふ、と空気が揺れる。 「わかった死にたいなら潰してやるわメス豚がァァァ!!」 「上等よ返り討ちにしてやるわメスゴリラァァァ!!」 妙の白い足が閃光のようにあやめの横面を襲う。 それを左腕で弾いたあやめの膝が、妙の顎先目掛けて突き出された。 ひらりと上体をかわす妙のスカートが、場違いな優雅さでふわりと揺れる。 「あーあ、また始まっちゃったアル」 「先に掃除だけ済ましておこう。そうすれば、終わったらすぐに妙ちゃんの家に行ける」 「わっちも手伝おう」 ドカバキとやり合う妙とあやめを尻目に、3人は掃除を再開する。 2人のバトルは、結局チャイムが鳴るまで続いたのであった。 《おまけ》 「おーおー、また派手にやってるねェ、あの2人」 「校舎は壊さないで欲しいよなァ」 「坂田センセイ、慕われてるねーヘンタイなのに」 「おめーに言われたくねーよ服部ヘンタイ」 「それにしても、よくもまァ見えねェモンだなァ‥見た?今の飛び蹴り。ありゃ普通丸見えになるんじゃね?」 「だからお前はヘンタイって言われんだよ。志村のアレは絶対領域っつーんだよ。選ばれた勇者のみ冒険することが出来るんだよ」 「ヘンタイのお前にヘンタイって言われたくねーわ」 (091231) |