目の前で新八がアネゴに向かって、何やら一生懸命話している。 その話を微笑みながら聞いているアネゴの横顔は、とても優しくてやわらかいのに、どうしてちょっぴり遠くに感じてしまうんだろう。 気が付いたらアネゴの着物の袖を掴もうと手を伸ばしていて、慌てて手を引っ込めた。 その気配に気づいたのか、アネゴがこっちを見て笑った。 「どうしたの?神楽ちゃん」 そう言って、アネゴは私の目を見つめる。 「‥何でもないヨ」 そう笑ってみたけど、アネゴの目を見てうまくいかなかったのがわかって、目の前に置かれていたお煎餅に手を伸ばした。 アネゴはそんな私を見て、静かに笑ってお茶を啜る。 こういう時のアネゴの目はとってもやさしくて、うれしいのに何だか胸の奥が苦しくなる。 あのメガネはこのやさしい目に見守られてきたのか。 そう思っただけで、うらやましくなる。 でもあのメガネの、アネゴを見守る目もとてもやさしい。 そうやって2人で生きてきた姉弟だから、お互いのことをよく見ているし、絆も深いのだろう。 だからアネゴは、新八が落ち込んでいたり悩んでいたりするのにすぐ気付く。 それは新八も同じで‥ 「神楽ちゃん?」 はっと顔を上げると、アネゴがすぐ横で顔をのぞき込んでいた。 「なっ、何でもないネ!」 慌ててかじりかけのお煎餅を口に放り込んでいると、新八が首を傾げた。 「さっきからどうしたの?神楽ちゃん。もしかして眠いの?」 「なワケねーだろ、ダメガネ」 「何その態度の差!僕なんかした!?」 ぎゃーぎゃー騒ぐ新八を一発殴って静かにさせようとしたら、コツンと何かが頭に当たった。 畳に落ちた小さな箱を拾うと、寝転んでジャンプを読んでいた銀ちゃんがため息混じりに呟く。 「ガキは難しいこと考えねーで、酢昆布でもかじってりゃいいんだよ」 「‥私はガキじゃないネ」 「思い切りガキじゃねーか。大人はそういうこと言わねーんだよ」 「ダメな大人に言われても説得力ないアル」 かわいくねーガキだな、とブツブツ呟く銀髪に定春をけしかけて酢昆布の箱を開けようとしたら、目の前に小さくて綺麗な包みが静かに置かれた。 驚いて顔を上げると、アネゴがにこにこしている。 「神楽ちゃんにプレゼント」 「‥えっ?」 驚いて目をぱちくりしていると、アネゴの手が優しく頭を撫でてくれる。 「今日は神楽ちゃんのお誕生日でしょ?」 「あ‥」 どうしよう。 ほっぺたがかぁっと熱くなるのがわかる。 お礼、ありがとうって言わなきゃ。 「ありがと、アネゴ」 「どういたしまして」 そういって微笑むアネゴに胸がいっぱいになって、プレゼントを握り締めたままアネゴに抱きついた。 「ほら、やっぱりガキじゃねーか」 「姉上はホント、神楽ちゃんに甘いよな」 「定春、銀ちゃんと新八で遊んでいいヨ」 「わふっ!!」 「「ぎゃあぁぁぁ!!」」 せいぜい羨ましがればいいネ。 そう小さく呟いたら、お茶目さんね、とアネゴが笑った。 その笑顔はとても優しくてやわらかくて、なぜだかちょっとだけ泣きそうになった。 《おまけ》 「アネゴ、開けてみてもいいアルか?」 「えぇ、もちろん」 「これ‥?」 「つげの木で作った櫛よ。それで髪を梳かすと、つやつやになるんですって」 「アネゴのみたいにアルか?」 「ふふ、神楽ちゃんならもっと綺麗になるわよ、きっと」 「銀ちゃんの髪も、これならアネゴみたいになるアルか?」 「どうかしら。マダオを治さないと効かないかもしれないわね」 「何だとコラ。ちょっと泣いていい?」 「あーもういいですから!そろそろ行きましょうよ、あの店、結構人気だから並んでおかないと」 「ハイハイ。神楽、今日は思い切り食っていーぞ。ただし30分以内に完食しろよ。そしたらケーキもつけてやる」 「任せるアル!!行こっ、アネゴ!」 「えぇ‥ねぇ、どうして30分以内なの?」 「あー、30分以内にステーキ10人前を食えば、タダになるんだよ」 「この辺の大食いメニュー、あらかた行き尽くしちゃって探すの大変だったんですよね」 (081103) |