色付いた葉が涼風と遊びながら、はらりはらりと落ちていく。 綺麗な青い空にはふわりと雲が浮かんでいて、その公園はとても気持ちよい空気に包まれていた。 ベンチでは、少女がコーヒーのチルトカップを傍らに、ひたすら目の前の小説に没頭していた。 膝の上に載せたままになっているサンドイッチの包み紙が、時折カサリと音を立てても、少女の手はページを繰り続ける。 文庫本とコンビニの袋を手に、同じくベンチへやってきたクラスメートは、そんな少女を見て苦笑しながらそっと声を掛けた。 「‥サンドイッチが乾いちゃうよ、志村さん」 「伊東、くん」 よほど本に夢中になっていたのか、伊東をゆっくりと見上げた妙の目は少しぼんやりとしていて、伊東の口の端がほころんだ。 「そんなにおもしろいのかい?その本」 「読み始めたら止まらなくて‥あ、良かったら座る?」 「いいのかい?」 「えぇ、ちょっと一休みするわ」 あぁ、お腹空いたとサンドイッチを口に運ぶ妙に、同じくパンをかじりながら伊東が笑う。 「かなり夢中になっていたね。何を読んでいるんだい?」 「『死鬼』っていう本よ。今、山間の村が大変なことになってるところなの」 「へぇ、それ本屋で見かけた覚えがあるな。前に結構評判になっていたよね」 「えぇ、今度漫画化もされるみたいよ。伊東くんは何読んでるの?」 伊東のそばに置かれた本に妙が視線を向けると、伊東が本を手にとってぱらぱらとページをめくり出した。 「ミステリーなんだけど、ちょっと前の本でね。『斜め邸宅の犯罪』という本だよ」 「どこかで聞いたことがあるような‥」 「途中で“私は読者に挑戦する”っていう、作者からの挑戦状みたいなページがあってね。読んでいて燃えるんだよ」 ほらここ、と開かれたページに目を走らせた妙の目が輝く。 「おもしろそう!今のを読み終わったら、読んでみようかしら」 妙の言葉に、伊東がわずかに身を乗り出した。 「良かったら貸してあげようか?その代わり、今志村さんが読んでいるのを貸してくれないかい?」 「いいわよ!でもこの本、全5巻だからちょっと遅くなっちゃうかも‥」 「いつでも構わないよ。そういえば、駅前の新しい本屋で‥」 話に花が咲く2人に、暖かい日差しが降り注ぐ。 穏やかな秋の昼下がりだった。 《おまけ》 「お前ら、教科書でも何でもいいから本を持て。行くぞ‥アレ、俺のジャンプはどこいった」 「教師がジャンプとか言ってんじゃねーよ。そこはハッタリでも、ダザイとかアクタガワとかソーセキとか言っとけよ。国語教師だろ」 「俺の専門は古文なんだよ。ついでにジャンプは、少年にとっての聖典でもあんの。ドラゴンボーズ然り、ワンパーク然りだろ」 「せんせー、俺教科書持ってないんで、ペスノートでもいいですかィ?」 「おー何でもいいから持って来い。ついでに伊東の名前を書き込んでもいーぞ、先生が許す」 「何言ってんですか!アンタ仮にも担任でしょうがァ!」 「あ、それなら俺も協力するわ」 「わかりやした、ついでに土方さんの名前も書いておきまさァ」 「何だとコラ!わかった、俺が書くからノート寄越せ」 「イヤでさァ」 「ふざけろクソガキ!!」 「あーもうお前らいい加減にしろよ、あいつら連れ立って歩き出しちまったじゃねーか!追うぞ!!」 「‥先生、なんでそんなにムキになってんですか。まさかうちの姉上に懸想してるんじゃねーだろうな」 「何言ってんだ志村弟。うちのクラスは不純異性交遊は禁止なんだよ」 「ちっ、伊東の野郎、なかなか行動が早いじゃねーかィ」 「アイツに負けんのは我慢ならねェ‥!とことん邪魔してやる」 (081022) |