食欲の秋/学生坂+妙




ひやりとした空気が頬と手を少しづつ冷やしていく。
明るい店内の一角で、妙は悩んでいた。

「おぅ、志村さんじゃなかか〜こがなとこでどうした?」

ふいに声を掛けられて振り向くと、ひょろりとした同級生が笑みを浮かべて近寄ってくる。

「坂本くんこそ珍しいじゃない、1人で」
「なんか腹が減っての〜食欲の秋じゃな!アッハッハッハッハ」
「確かに、すっかり涼しくなったものね」
「志村さんも食欲の秋がか?何見とるんじゃ」

妙の言葉に頷きながら、坂本は妙の背後を覗き込んだ。
そこには、ひんやりとした冷気に包まれて様々なアイスが並んでいる。

「見て、これ!季節限定なのよ。どっちにしようか迷っちゃって」
「ほぅほぅ」

大好物のアイスのカップを指しながら、再び悩み始めた妙の目の前に坂本の手が伸び、妙は驚いて坂本を見上げた。

「ちょっと、坂本くん?何‥」
「アッハッハッハッハ!両方とも買うたらええきに」
「えっ、でも‥」

戸惑ったように見つめる妙の前で、アイスのカップを2つ手に取った坂本は笑う。

「ええって!わしがご馳走するぜよアッハッハッハッハ!」

ご馳走という言葉に、妙の目がきらめいた。

「坂本くん、ステキ!」
「アッハッハッハッハ見事な棒読みぜよ志村さん」
「うふふ、気のせいよ〜!今の坂本くんは輝いて見えるわ。特に天パなところは、坂田くんとは全然違って男前にクリンクリンしてるわ」

満面の笑みを浮かべる妙に、坂本の笑みがわずかに深くなる。

「そりゃまた微妙じゃのぅアッハッハッハッハ!じゃがな、タダでご馳走するわけにはいかんきに」
「えっ?」

わずかに目を見開いた妙に構わず、坂本はレジに向かって歩きだした。

「そうじゃな‥アイスは2つあるきに、半分づつじゃな」
「半分こするってことかしら」
「おぅ。志村さんもいっぺんに両方とも試せるから、お得じゃろ?」
「‥確かにそうね」

レジ袋を受け取り、坂本は妙の手を取った。

「そいじゃ行くぜよ〜」
「ちょ、ちょっと!どこに‥」

そのまま歩きだした坂本に妙が慌てていると、坂本が機嫌よく笑い出した。

「アッハッハッハッハ、そこの公園じゃ〜!一緒に食わんと、半分こ出来んろー?ちなみに半分こする時は、もちろん『はい、アーン』じゃ、アッハッハッハッハ!!」

思ってもみない言葉に、妙が呆気に取られて坂本を見上げた。

「ほ、本気?そんなことするの!?ちょっと待っ‥」

うろたえる妙に、坂本は妙の目を覗き込んでニッと笑う。

「この世はギブアンドテイクじゃ。志村さんもよぅ知っとろー?」
「‥‥っ(しまった、反論できないわ)」
「アッハッハッハッハ、レッツゴー!」

フリーズしてしまった妙の背中に手を添えて、坂本は上機嫌にベンチへ向かって足を踏み出した。
心地よい風が吹き、少し暖かすぎる日差しが降り注ぐ。
絶好のアイス日和だった。



(081021)








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