■奥村誕のお祝いコメント! 雪男君燐ちゃんお誕生日おめでとうございます☆天使としか言えないほど可愛らしいあなたたちに私の心は狙い撃ちされたうえで真っ二つです!幸せになってくれればそれでいいんだ…奥村に幸あれ!主催のお二方、素敵企画を立ち上げてくださったことこの場を借りてお礼申し上げます。それではよい奥村誕を!
すべては君と
朝一の電話で医工騎士に招集がかかった。雪男は遅くならないように帰るよ、と言って出掛けて行ったが、もう午後十時を過ぎたというのに戻っていない。
「ゆきおー…おせーな。手こずってんのか?」
一人食卓についてワインのボトルをもてあそぶ燐の視線が空のままの皿、ケーキと動いて、最後はカーテンを開けたままの窓にとまった。室内の熱気が逃げ出すせいで寒くはあるが、締め切った空間にいるのが嫌でそのままにしてある。ガラス一枚隔てた外界では、ちらちらと雪が舞っていた。
「マフラー、と、手袋…持ってったかな」
出掛けに声はかけたはずだ、と思うけれど、自分のこととなると大雑把になる雪男を知っているから心配になる。数を増やして夜を白く染めだした雪を何気なく見ていると、きらりと何かが光った。人工の明かりとは違う小さな光。
「……ああ、」
懐かしむように青い双眸が細められ、赤い口唇がゆるりと弧を描く。光は燐のピアスが室内灯を反射したものだった。
十六の誕生日に雪男から貰ったもの。
その日はちょうど冬休み初日がということもあり、日中は塾生たちから誕生会なるものに招待されていた。燐も雪男も身内以外に誕生日を祝われるという経験がなく、初めこそぎこちなく照れていたが最後には無礼講と化した誕生会は二人にとって嬉しい贈り物だった。
日暮れまで続いたそれもおひらきとなり、また来年と挨拶を交わして帰路に就いたのが少し前の話。
それほどかからず六〇二号室の扉をくぐった二人だったが、半日以上無人だった室内は外ほどではないが冷えていた。まだ寒い、と言って繋いだ手を離したがらない燐に雪男は相好を崩す。ここでからかいの一つでも投げかけられれば燐は拗ねて手を離したのだろうが、扱いを心得ている雪男はそうだね、と返すにとどめたから重ねられた手が離れることはなかった。
足だけで靴を脱いで、暖房と明りのスイッチを入れてから雪男のベッドに並んで腰掛ける。部屋が温まるまで待つ間の話題を燐が捜していると、兄さん、と声をかけられた。
隣に座る雪男を振り向くと、ちょうど左手の手袋を口にくわえて外すところだった。
伏し目がちにして指先を歯で挟み、てのひらから指先までがゆっくりと晒されていく仕草はエロティックで、目撃してしまった燐はこくりと喉を鳴らす。ゆっくりと紅潮する頬と意識せず漏れたであろう吐息にくすりと笑い、雪男は手袋を外したばかりの手を左のポケットに入れた。
「ね、兄さん。顔赤いよ?」
「うるせーよ…バカゆき」
「あ、そういうこと言うの…いいけどさ。改めてだけど誕生日おめでとう、兄さん。はい、これ」
甘えを含んだ罵倒には触れずにおいて、ポケットから引き抜いた手が燐の前に差し出された。小さな、てのひらにおさまる大きさの紙袋。雪男の手にあったそれは、反対側から伸びてきた燐の指先に挟まれ、持ち上げられた。
「見ていいか?」
「いいよ。寧ろそうして欲しいかな」
繋いだ手を離すのは名残惜しかったが、燐は絡めた指を解いた。右手の手袋も外して雪男に返してから、貰ったばかりの袋を開いた。口を開けて手の上で逆さにする。
「ピアス?」
転がり落ちてきたのは、黒い石のついたシンプルなピアス。別段変わっているということもないありふれたものなのだろうが、雪男とピアスという組み合わせが予想外だったため燐は驚いていた。プラスチックの台に括り付けられているそれを眺めていると、黒だと思っていたが光の加減によって青にも見えることに気づく。角度を変えて眺めていると、横で見ていた雪男はマフラーを外してコートを脱いでいた。ようやく室内が暖まってきたようで、急に暖かさを感じ始めた燐も雪男にならってジャケットを脱ぎ、形を整えてハンガーにつるしてからもう一度ベッドに腰掛ける。
「本物?」
「まさか。イミテーションだよ。でも金属部分は良いやつを選んできた」
「イルミネーションって…光んのか?これ」
「違うよ、イミテーション。ニセモノってこと。勝呂君の羨ましがってたから、兄さんが変なデザインのとか買ってくる前にって思ってさ」
暗にセンスが悪いと言われて、燐はむっとして頬を膨らませた。通常ならば眦をきつく吊り上げて品のない罵倒を投げつけるところだが、今日の燐の注意は手中のピアスへと逸れていた。ここで怒って時間をくうよりも早くつけてみたいという欲求の方が強く、「ば」の口に開こうとしていた唇をきゅっと引き結んで言葉を飲み込む。
「なあ、これどうやったらつけれんの?」
あれ、珍しい、とか、今日は怒らないんだね、とか、大分失礼なことを言われた気はするが燐はそれらを無視した。それよりも今はピアスだ。
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