■奥村誕のお祝いコメント!
お誕生日おめでとう! 生まれて来てくれてありがとう! お祝いの話が少しシリアスになっちゃってごめんね…!



「どこでそんなキス覚えてきたのさ」


12月27日。クリスマスも過ぎ、大晦日も間近に迫ったその日。
正十字学園・旧男子寮の一室からは、賑やかな声が響いていた。

「「「お誕生日おめでとう!!」」」

そんな掛け声から始まった今回の集まりは、察しの通り誕生日会で。
その主役は奥村 燐と雪男の双子の二人。
今回の会を企画したのは祓魔塾のクラスメイト達で、勝呂と志摩に子猫丸、しえみと出雲といういつもの顔触れが揃っていた。
自分の誕生日を祝う会のはずなのに、なぜか燐自らが腕を振るった料理の数々が机の上に並び、それを食べた友の「美味しい」の一言に、些細な疑問もあっさり吹き飛んだのは燐の単純さゆえだろう。
場を盛り上げる為の余興として志摩と子猫丸が漫才を披露しみなの笑いを誘い、案外手先の器用な勝呂はマジックを披露してみんなを驚かせた。
しえみと出雲は自作してきたという菓子でのロシアンルーレットで、男性陣はみなしえみ手製の菓子だけは引き当てぬようにと意気込み、見事志摩が悶絶していた。
そんな笑いの絶えない誕生日会が、夜更けまで続いたのだった。

「ん…?」

トイレに行った帰り、そういえば飲み物が少なくなっていたな…と食堂に取りに来た燐は、すでに食堂に明かりが点いていたことに首を傾げた。

「…雪男? どうした?」

中を覗けばそこにいたのは雪男で、食卓のいつもの指定席に座っていた。
燐が声を掛ければ、雪男は少しだけ驚いたような目を向けてきた。

「そういう兄さんこそ」
「俺は飲みモン取りに来ただけ。お前は?」
「…僕も同じだよ。予想以上に減りが早いからね」
「………」

そう言って雪男が目で示した先には、盆に乗った数本のペットボトルがあった。
いつもと変わらぬ笑顔を浮かべてみせた雪男ではあるが、しかし一瞬の間を燐は見逃さなかった。
ドカッ…と、雪男の隣に燐は腰を降ろす。

「兄さん?」

椅子に座ったままぼんやりと天井を見つめる燐に、今度は雪男が首を傾げた。

「みんな呼んだの、やっぱマズかったか?」
「え…?」

ポツリと呟かれた燐のその問いを、雪男はすぐに理解出来なかった。
燐の視線は未だ天井に向けられたままだ。

「いや、ほら、お前大勢で騒いだりとか苦手だろ? なのに俺がみんな呼んじまったから、疲れさせたかな…って思って」
「珍しいね、兄さんがそんなふうに気を遣うなんて」
「珍しいは余計だ。俺だって心配することくらいあるっつーの」

ようやく雪男に向けられたその視線は、僅かに不満のイロが浮かんでいた。

「ははっ、ごめん」
「…お前、俺のことバカにしてねぇ?」
「してないってば」

そう言いながらもクスクスと笑い続けていては、全く説得力がないというもの。
さらになにか言ってやろうかと燐が口を開きかけた時、不意に雪男の笑みが消えた。
代わりに浮かんだのは、今にも消え入りそうな、儚い微笑みだった。
その微笑みに、燐は思わず開きかけた口を閉じていた。

「確かに疲れてはいるけど、苦ではないよ。あんなに声を上げて笑ったのは久しぶりだったし」
「そういやそうだな。雪男の笑顔って見慣れてるけど、学校とかじゃほとんど作り笑顔だし」
「ちょっと、誤解を招くようなこと言わないでよ」

ジトリと軽く睨まれたが、それくらいで怯む燐ではない。
ニカッ…と笑顔を浮かべてみせれば、雪男は諦めたようにため息を吐いた。

「………」
「………」

ふいに会話が途切れ、食堂が静寂に包まれる。
けれどそれは居心地の悪い静寂ではなくて、二人は自然と椅子の背に深く凭れ掛かり、ぼんやりと天井を見つめた。
時折、遠くから笑い声が聞こえてきて、勝呂達が盛り上がっているのだろうと、そんなことを頭の片隅で思った。

「そういえば、兄さんは覚えてる?」
「んぁ?」
「昔、兄さん雪に埋まったことあったでしょ」
「あー…、そんなこともあったな」


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