■奥村誕のお祝いコメント!
燐も雪男もお誕生日あめでとう!生まれてきてくれてありがとう!そして、この度はとっても素敵な企画に参加させて頂き有難うございました。主催者様に感謝です。燐も雪男も大好きなので、誕生日を皆でお祝いできるとはなんて素晴らしい企画なんだと感動しています。お互いに兄弟想いで強くも不器用な二人には、絶対幸せになって素敵な誕生日を過ごして欲しいです。なので、普段雪燐を書かない不慣れな奴ですが、お祝いさせてもらいました。今年だけじゃなく、来年も再来年もこうした企画で幸せな誕生日を過ごせることを願ってますv


※アニメ設定です。


【Dearest】 by梅華



「では、これで僕は失礼します。」

今しがた足元に倒れた悪魔に目をくれるでもなく、怪我をした同僚の治療をするでもなく僕は、扉に向かうべく現場から背を向けた。祓魔師には自分の意志でなったけれど、今日ほど自分が祓魔師であったことを呪った日はない。


「…ふざけるなっ」

思わず悪態が口を突く。確かに天才と呼ばれているが、何でも自分に押し付けてくるのは如何なものか。働かない同僚は助けになるどころか逆に足を引っ張る。おかげでいつもより任務に時間がかかってしまった。最早自分を取り繕う余裕もなく、僕は扉を探し走る。どうして壊れた扉はそこら中に存在するのに、まともな扉は見当たらないのか。苛々は募るばかりだ。

(くそっ!携帯の電源を切っておけばこんなことには…!!)


今日は、僕と兄さんの誕生日だった。去年までは修道院の皆で、クリスマスと一緒に祝っていたのだが、今年はこの一年で様々な出来事があり、初めて二人だけの誕生日祝いとなった。昼間は今年最後の祓魔塾があったけれど、夜はずっと二人きりだ。兄さんの作ったごちそうにお腹を鳴らすクロを見て笑い、ケーキのろうそくに火を灯し、さぁ二人で吹き消そうとした時、その悪魔の電話は鳴ったのだ。


『兄さんごめん。本当にごめん!』
『いいって。任務だろ、いつもは俺が文句言っても仕方ない我慢しろって言うくせに、こんなときだけ気を使ってんじゃねぇよ。』
『でも、今日は一緒にいようって約束したのに…。』
『ばーか。誕生日なんて来年もあるじゃねぇか。ほら、行って来い。ケーキ食うの待っててやるからさ。』


確かに兄さんの言う通り、誕生日は毎年一回誰にでも平等にある。今年は駄目でも来年がある。けれど、今年は僕らが恋人同士になって初めての誕生日だったのだ。二人共男で、兄弟で、悪魔で。それでも紆余曲折を経て僕と兄さんは恋人になった。だから僕にとって今年の誕生日は、いつもより特別だったのだ。いくら僕の特技が予定をすし詰めにすることでも、12月27日の誕生日だけは何も入れずにいたのだ。兄さんと一緒に居たかったから。兄さんを甘やかしたくて、僕も兄さんに甘えたかったから。

(それなのに、結局僕のせいで兄さんを一人にさせてしまった…)

突然の応援要請など蹴り飛ばしたかったが、祓魔師である以上そうはいかない。私情で仕事を疎かにするような僕を兄さんが許す筈もない。寧ろ僕の代わりにと一人で行きそうだ。そもそも自分の恋人は、己よりも他人を大切にする生き物で。乱暴な態度や口調に他人は誤魔化されるけれど、本当は人恋しがり屋の寂しがり屋なのだ。だからこそ僕は、誕生日は兄さんと一緒にいたかった。彼に孤独な想いを感じさせたくはなかった。

それなのに、あんな台詞を吐く奴と一緒に悪魔退治なんて可笑しくて哂ってしまう。僕達は魔神の落胤であるが故、常日頃から罵られる。誕生日という日ですら、周りからは呪いがかった言葉の祝福だ。魔神の落胤なんて恐ろしい、どうして生まれたんだ?生まれてこなけりゃ良かった、なんて言葉は何度影で聞いたことか。特に今日は酷かった。


『誕生日ぃ?悪魔に誕生日とか関係ねぇだろ。寧ろ世界で一番最悪な日じゃねぇか。』


あのとき僕は、電話の向こうにある声が兄さんに聞こえなくて、本当に良かったと思った。僕への応援を遠慮した同僚にこの台詞を吐いた祓魔師の顔を見た時、悪魔よりもソイツを殺したくなった。怪我の放置で済ませただけまだ有難いと思って貰うべきだ。



「兄さん!ただいま!」

ようやく見つけた扉に鍵を差し込み乱暴に回す。開けた先は二人で住む聖十字学園の旧男子寮だ。僕は廊下を走り、任務前に笑い合っていた食堂へと飛び込む。だけどそこは電気が消され、既に誰もいなかった。用意されたごちそうはクロの分が減っている状態でラップがかけられている。

「兄さん?」

確かにずっと食堂にいるのも暇だろう。恐らく彼は部屋で待っているに違いないと、僕は二人の部屋である六〇二号室に駆けあがり扉を開けた。けれどそこにも兄さんの姿はない。代わりに彼のベッドで丸くなっていたクロが僕に気付き、何かを咥えてベッドから降りてきた。

「クロ、ただいま。兄さんはどこか知らない?」
『知ってる。雪男が帰ってきたら渡せってこの鍵、俺に預けて雪降ってるとこに出て行った。』

僕は悪魔として覚醒してから、クロとも会話できるようになった。クロが咥えてきた鍵を手に取る。それは、一度だけ使ってあとは鍵のかかる二人共有の引き出しに閉まっていた鍵だった。自分達が生まれた場所へと繋がる鍵。クロに預けたと言うことは、僕に来いと言うことだろうか。どちらにしろ、鍵がなければ兄さんは帰って来られないのだから、迎えに行くしかない。

「ありがとう。僕も行って来るよ。」
『行ってやれ。燐、寂しそうだったぞ。』

クロを一撫ですると僕は一度廊下に出て、扉に鍵をさして再び回す。開けた先は、寮の部屋ではなく雪に覆われた白の世界だった。
一歩踏み出せば、息に寒さが滲んで冷気が肌を刺す。見上げた空は重く、そこから舞い落ちる雪はただ静かな音のない世界を創っていた。こんな寂しい場所に兄さんが一人でいるのかと思うと、早く彼に会って抱きしめたくて堪らない。薄らと残っていた彼の足跡を追う。歩調が自然と早まる。けれど、雪の為に走ることはできずもどかしさだけが募った。早く、早く、僕は兄さんに会いたいのに。



「ぁ…」

視線の先、ようやく辿りついた終点で見つけた兄さんの姿。彼は母さんの墓標となっている小さな岩の前で、まるで敬虔なクリスチャンの如く膝を突いていた。周りには、ゆらゆらと何十もの蒼い焔が揺れている。それは彼が炎を制御するため、用意された蝋燭の残りに灯されたものだった。母さんへの弔いに、兄さんが数限りなく並べ焔を灯したのだろう。

美しかった。

人々が最も恐れる魔神の蒼炎なのに、それは幻想的な美しさを煌めかせながら、優しく温かくその場を照らしていた。雪を溶かすことなく反射し灯る焔には、神聖さすら感じる。触れただけで穢れてしまいそうだ。僕はその場から動けず、美しい画の中で一番の存在を放つ背中にそっと声をかけた。


「兄さん…」
「おぉ!おかえり雪男。遅かったな、ごくろーさん!」

呼びかけた声に立ちあがり振り向いた兄さんが、僕を見て笑う。その笑顔はさっきまでの神聖さを失わせる光輝く笑顔だったが、僕が一番好きな笑顔だった。きっと誰も、そう祓魔塾の皆だって、兄さんがこんなにも優しく微笑うことを知らない。それはいつも僕にだけ向けてくれる特別な笑顔だ。兄さんの笑顔に気が緩んだのか、何故か僕の目元が潤んで、慌てて寒さをカモフラージュに鼻を啜った。

「何してたの?こんなとこにずっと居たら風邪引くよ。」
「大丈夫だって。ちゃんとオマエが迎えに来るよう、クロに鍵渡しておいただろ。」
「そりゃそうだけど…でも僕が何時戻るかわからないのに。」
「んーでも、何となく雪男は日付変わる前に戻って来る気がしたからさ。」
「何となくって…」

相変わらずアバウトな思考回路だなと溜息をつけば、兄さんはくるりと僕から背を向けた。そして親愛を込めて墓標を撫でる。僕達を産んだ人に、僕が来るまでの間兄さんは、一体何を語っていたのだろうか。


「誕生日だからな。…ちょっと母ちゃんに礼を言いに来ただけだ。」
「お礼?」

背中越しで見えずとも、兄さんが綺麗に笑ったのがわかった。尖った赤い耳を僕に晒しながら彼は昔、泣いていた僕に手を差し伸べた声で答える。


「雪男を生んでくれてありがとう、ってな。」


その刹那、胸に去来したものを僕は何と呼べば良かったのだろう。息が出来ない程の愛苦しさを、溢れんばかりの愛しさを。兄さんで形作られたこの気持ちを、僕は彼にどう伝えれば良かったのだろう。


「燐…っ」

実際はただ名を呼ぶことしかできなくて、僕は僕を突き動かす衝動のまま、兄さんに手を伸ばし彼を背中からきつく掻き抱いた。冷えた兄さんの身体が驚きに一瞬だけ強張る。けれど、いつもみたいに照れて怒って離れることもなく、兄さんは自分の手を僕の手に重ねてくれる。

「オイ、兄貴を呼び捨てすんじゃねぇよ…まぁ、今日だけは仕方ねぇから特別許してやるけどよ。」
「はは、ありがとう…燐。」

縋る様に抱きしめて、燐、燐、と馬鹿みたいに何度も名を呼ぶ。その度に僕の腕の中で体温をあげる兄さんがいた。心の温かさがじわりと染み込んで、さっきまでの焦燥も、暗澹たる気持ちも、兄さんに触れるだけで浄化されていく。
彼を想う、綺麗な気持ちだけが残っていく。


「オマエ、何かあったのか?」
「……別に、何もないよ。」
「そうかよ。」

優しい兄さんの問いかけに、今更ながら僕は、僕自身も傷ついていたんだなと気付いた。あの電話で言われた言葉に兄さんが傷つく事を恐れながら、僕こそが悪魔と罵られることに傷つき恐れていた。兄さんを一人で寂しくさせたくないと建前を並べながら、僕こそが誕生日と言う日に任務で離れることが寂しかった。
だから早く兄さんに会いたかった。僕達が生まれたことは最悪なんかじゃないって言って欲しくて、共に在ることに安心したかった。

強い人ほど、痛みに鈍いと人は言う。

僕は、確かに泣いてばかりいた昔より少しは強くなったと思う。そして確かに傷にも鈍感になった。小さな怪我や些細な悪口に泣いたりしなくなった。だけど、傷つかないことはないんだ。ただ痛みに慣れて麻痺しただけだ。本当の僕は弱虫で、いつだって痛くて心の奥底では泣いている。

けれど、いつの間にか誤魔化しが当り前になって、僕自身ですら気付かない傷までも、兄さんは全て癒してくれる。それも、無意識で。

僕が一番望む形で。



「なぁ、雪男。」
「何?」
「この一年色々あって、これからもきっと俺のせいであるけどさ。魔障受けても生まれてきてくれて、俺と一緒に生きてくれてありがとな。感謝してる。」


ほら、電話の声が聴こえてなかったくせに、脈絡もなくそんなことを言って僕を救う。その言葉が、僕の心をどれだけ震わせてるか、兄さんは知らないんだ。僕に全てを任せ身体の力を抜いて伝えてくれることが嬉しい。

大切な唯一に信頼されている幸せ、愛される喜び。



あぁ、兄さんが愛しいよ。



彼の存在だけで、僕は救われて、どんな酷い世界でも生きていける。だから僕も、兄さんが僕と一緒に生まれたことに、ありたっけの感謝と愛を伝えたい。


「燐も生まれてきてくれてありがとう。これからもずっと、僕の一番近くで誕生日を祝って。」
「雪男…」
「永い道だけど、ずっと一緒に生きよう兄さん。」

指を絡め想いを兄さんに贈る。僕の永遠の気持ちを兄さんへと。綺麗に微笑って兄さんが受け取れば、彼の気持ちを代弁するかのように周りの蒼焔が華を咲かせ夜空を輝かせた。


「永くなんかねぇよ、雪男がいるならきっと一瞬だ。」


そして僕達は、母さんの前で誓いの口づけを交わす。


「雪男」

「燐」


雪が降るみたいに、焔が闇を照らすみたいに。何度も互いの名を呼びあって、手を繋いだまま白のシーツに縺れ込んで。


「「愛してる。」」


どちらともなく愛を囁いて、二つ分かれ落ちた日に一つへ戻る。

僕達は悪魔だから、言葉ではなく身体で確かめる。けれど僕達は人だから、愛で繋がる。何度でも、ずっと、一つに還って、そして、共に在ろう。この世界で唯一、生きていることを愛してくれる貴方に。貴方がいれば、世界中が敵でも構わない。



「誕生日おめでとう。」



そして、これからもずっと、刹那の時が止まるまで。



この愛の言葉を毎年紡いでいこう。






END

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HP→Ume * Cherry/梅華様


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