渇きー其の2ー
僕の隣に座り、黙り込んじゃった一君
僕の事が、心配で部屋を訪ねてくれたなんて、僕が一番知ってる
不器用で、あんまり自分の思ってる事を口にしないから、誤解され易いんだけど
本当は、誰より仲間思いで
誰より優しい、綺麗な心を持ってる
きっと今だって
『気の利いた言葉一つ言えない』
とかって、思ってるんじゃないかな
「一君、ありがとう。僕なら、大丈夫だよ……だからさ、気にしないで休みなよ。君が倒れちゃったら、みんな困っちゃうでしょ?」
「本当に、大丈夫なのだな?」
僕の言葉が、信用出来ないのか、真っ直ぐに僕の目を見て、確認してくる一君
「一君てば、心配し過ぎだよ。本当に、大丈夫だからさ」
苦笑いを零しながら、そう言った僕を見て、一君はすっと立ち上がる
「ならば、良いのだ。だが、無理はするな」
「分かったよ」
「ゆっくり、休め」
短くそう言って、一君は背を向けた
「うん。一君こそ、ゆっくり身体休めな―――!!?」
一君が、部屋の襖に手をかけた瞬間。強烈な喉の渇きを感じて、言葉を飲み込んだ
「っ―――!!!」
(熱……い……何な……のさ……これ……)
異常な程の、喉の渇き
胸を押しつぶされそうな程荒くなった呼吸
身体中の血が湧き上がったように、全身が熱をもっていく
(息が……出来ない―――!!!)
「総司っ――!!?」
異様な気配に、振り返った俺の目に映った総司は、苦しそうに喉を抑えていた
白髪に染まった髪と
血に飢えた紅の瞳
羅刹の狂気が、総司を呑み込もうとしていた
「こっ……ないで!!」
近寄ろうとした俺を、総司の手が止めた
「放ってはおけぬ!!」
「それ以上近づいたら……」
尚も近づことする俺に、総司は枕元に置かれた、自らの剣を抜き、その矛先を俺に向けた
「っ――斬る……よ」
紅に染まる瞳が、俺を射抜くように睨みつける
(何故だ……何故、あんたは、一人苦しもうとするのだ……)
「なっ……一君っ――!!?」
突き付けた、刀身を一君は何の惑いも無く、素手で握り締めた
「あんたは、一人では無い……」
《カタッ……ン……》
離した刀が、静かな音を立てて床に落ちる
「っぐ……うっあっ―――!!!」
一君の手から溢れた血の匂いが、鼻腔を刺激して茹だるような熱さが全身を巡る
(はぁ……はぁ……)
耳の中で木霊する呼吸の音。自分の身体が、自分のものでは無いような、奇妙な感覚
(駄目……一君……離れて……)
伝えたい言葉は、血に狂った喘ぎに遮られ、意識とは逆に、血で染まった一君の手に、僕は手をのばした
「総司………」
一君が、ぽつりと呟いた僕の名前。奥底に追いやられそうになった、理性が反応するように蘇った
(嫌だっ!!僕は、君の血なんかいらない―――!!!)
突き飛ばした一君の身体が飛び、鈍い音をたて壁に激突した
「ぐぁっ!!!」
背中を強く打ちつけた一君は、痛みに顔を歪ませる
「あっ……はじ……め君、ごめん……」
「気にっ……するな。俺ならば、大丈夫だ」
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