渇きー其の1ー

 
 


『ごめん……君にこんな事させて』

潤いを取り戻し、冷静さを取り戻しながら、心の中でそっと呟いた―――


〜*〜*〜*〜*〜*〜



灯りも無い暗闇の中、起き上がった僕は、今までの苦しみが嘘だったみたいに、どこかすっきりしていた


(変わった……んだ……)

目に掛かる前髪は、以前と変わらない
だけど、握り締めた拳にそれまでとは、違う力がこもる

自ら望んで、人の路から外れた僕
誰に言われた訳でも無く、ただ、ただ、強さが欲しかった

以前とは違う
自分の思った以上の力で剣が振れるんだ。そう思うと、新選組の為に、近藤さんの為に、役にたてる
荒み切っていた自分の胸に、一筋の光が指した気がして、喜びに満ち溢れた


でも、その光は、また違う闇を僕に落としたんだ


―もう……君の隣で、剣を振れない―


―……君が背中を預けるのは、僕じゃ無い誰か―――


ズキンと、胸の奥に小さな痛みが走った




「総司、少し良いだろうか……?」

「一君?何遠慮してるのさ。入りなよ」
部屋の外で、遠慮がちに声をかけると、何時もと変わらぬ総司の声に、それまでの不安が和らぎ、安堵の息が零れた

ゆっくり襖を開けると、暗い部屋の中、それまでとは、何ら変わり無い総司の姿


「どうしたの?こんな時間に、一君が僕の部屋に来るなんて、珍しいんじゃない?」

「あっ、あぁ……大した用は無いのだが……」


変若水を飲んだとは思えない程、総司の口調も、皮肉めいた笑顔も、以前のままで、変わった様子を見せぬ総司

だが俺には、その姿こそが痛々しく見えて仕方ない


―人に心配されるのを、異常な程嫌がる奴だ……―

―苦しむ姿など、一瞬たりとも人には見せぬ奴だ……―

―それが、例え戦場で背を預ける俺に対しても……あんたは、強がるのだろう?―


「一君?」


部屋に入ったきり、黙って立ち尽くす俺を、総司は訝しげに見る


「とりあえず、座ったら?」


苦笑を交えながら、総司はそう促す。言われるままに、床の隣に座した


「その……身体は、大丈夫なのか?」

「当たり前じゃない。一体どうしちゃったのさ?君じゃ無いみたいだよ」


本当は、もっと違う気の利いた言葉を選びたかった。だが、口をついたのは、余りにありふれた言葉


「そうか………」




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