短編 | ナノ


▼ 私のナイト様

今日は帰りが遅くなった。
夜道は真っ暗で切れかけている街灯がチカチカと心許なく光っているのが余計に恐怖心を煽る。
不気味だな、と小さく言えば余計に不気味な気がしてきた。

屋根に付いてるアンテナは、もしかすると長細い妖怪かもしれない。
視線を落とせば其処には着物を着た女の人が座っているかもしれない。
遠くを見渡せば奇妙な動きをする化物が蠢いているかもしれない。

そんなありもしない空想にブルッと身を振るわせた。そういえば寒い、かもしれない。
当然だ、だって夜なんだから冷えるのは当たり前。

当たり前当たり前、気のせい見間違い錯覚妄想空想全部全部ありえない。
自己暗示を繰り返しながらイヤホンの位置を正して音量を上げた。

歩幅を少し大きくして、速めに帰れるように急ぐ

大丈夫大丈夫、不審者も幽霊も妖怪も宇宙もUMAも出てこない

身を固くしながら家までの道のりを行く


ポン

「うわあああああ!!!」

「うわっ!!」

何者かに肩を叩かれて驚いて叫んでしまった
振り向くとそこには目を丸くした竜持がいた

「竜持…なんだ、びっくりした…心臓止まるかと思った」

「それはこっちの台詞ですよ…」

竜持が心臓を押さえて眉を寄せた。
竜持とは家が近所であることもあり、昔からの付き合いがあるがクールな子なのでこんなにも驚くのは珍しい。
流石にいきなり大声を出したのは駄目だったか

「ごめんごめん」

「…僕も配慮が足りませんでした」

コホン、と咳払いをしながら竜持は言った。
ところで何故竜持がここに居るのだろうか?

「こんな時間にどうしたの?」

聞いてみると竜持は肩を竦めて軽く息を吐いた

「ランニングですよ」

「1人で?」

いつも三人で朝にランニングしてるくせに。
まぁ夜にランニングをしているというのは初耳だが日課なのかもしれない。

「たまには1人で走りたい時もありますよ」

「…普通の私服で?」

「……。」

「こんな時間に?危ないよ?」

竜持の恰好はジャージでは無く私服だった。
ランニングに出るには少し動き辛いし適さないと思う。

首を傾げていると、竜持は「あーー…」と声を吐き出しながら前髪をクシャリと握った

「嘘です、ランニングしに来たんじゃないんです」

「え、じゃあ非行?」

脳内に夜間徘徊多数、非行に走る小学生!!という新聞の見出しを思い浮かべた。
竜持は三白眼で睨んできた

「違いますよ、僕が非行なんてするわけないじゃないですか」

「え、他に目的があったの?喧嘩でもした?」

降矢兄弟仲いいのに。
聞くと竜持は米神を押さえて溜息を吐いた

「どうしてあなたはそういう思考になるんですか…迎えに来たんですよ」

「え?」

竜持は真剣な顔をしてズイッと顔を近づけてきた
思わず半歩下がった

「和泉さんの部屋に灯が着いていないのが見えて帰りが遅いのかと心配で心配で仕方が無くって
不審者にでも出くわしていたり恐がってたりしてないかと思ってわざわざ迎えに来てあげたんです。
虎太くんたちには何も言わずに思わず飛び出してきちゃったんです
ランニングって言ってしまったのは心配してたなんて知られるのが恥ずかしかったからです
これでわかったでしょう、僕は和泉さんのことが心配だから迎えに来たんです。
ご理解していただけましたか?」

若干自棄くそのように竜持が言って和泉は慌てて頷いた。
迎えに来てくれたのだということはわかったけれども
なんだか、そんな風に言われてしまうと

まるで竜持が私のことを好きみたいじゃないか

いや、きっと気のせい。
でも、と少しだけ期待する自分を誤魔化して竜持から顔を背ける

「えぇっと、ありがとう。迎えに来てくれて」

「……はい、感謝してください」

チラリと見れば竜持も視線を逸らして俯いている。
もしかしたら見間違いかもしれないけれどその顔は赤い。

気まずい空気が流れた。

「……とにかく、早く帰りましょう」

竜持がスッと右手を取って歩き出して釣られて歩いた
不気味だと思っていた夜道には星が輝いていて、とても綺麗だと気付いた。

「竜持」

「なんですか?」

「迎えに来てくれてありがとう」

小さく笑いかけると、竜持は視線を夜空に向けた

「…また、遅くなることがあれば呼んでください
メールでも電話でも、とにかく僕のことを頼ってください
何時でも迎えに行きますから」

キュッと繋いだ手を握り返した

「そんなこと言ったら本当に呼んじゃうよ?
迷惑がられるぐらい呼んじゃうから」

「上等ですよ、寧ろ男としてはそのくらい頼って貰いたい物です」

冗談めかして言う竜持にクスッと笑った。

夜空には星がチラチラと輝いていた。
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