短編 | ナノ


▼ 神獣ハンター

神から愛される人は長生きしない。
それでも人も神も等しく恋に落ちて愛してしまう物なのだ。



白澤はベッドで浅い呼吸を繰り返して目を閉じている一人の若い女の痩せた手を握った。
窓の外には制服のスカートを短く折り曲げて楽しそうに談笑しながら帰る女子高生たちの姿があった。
眠っている女もまた彼女らと同じぐらいの年頃であるだろうに、身に纏っているのは清潔なパジャマ、そして眠るベッドもまた潔癖すぎる程に白い。
部屋も同じく白い病室だ。
呼吸器や点滴等の様々なチューブを繋がれた女の姿は痛々しい。

白澤が彼女と出会った頃はこんなにも弱々しく等なかった。
健康的に薄く焼けた肌と、明るい笑顔が眩しかった。
成長途中ながらも既に美しく輝くであろう見込みのあった彼女はその心までも美しく、白澤はすぐに惹かれた。
何時もの女好きと同じ程度ならばよかったというのに、あろう事か恋に落ちてしまったのである。

神獣である自分が生きている人間を愛してはならない。
相手を欲しすぎて命をあの世に引き込んでしまうからだ。
しかし恋とは諦めようと足掻けば足掻く程深みに嵌まってしまう物で気付けば白澤の想いは他の女に手を出す気が起きなくなる程に深い物となり
比例して彼女の生命力もどんどん削れて行き今では大半の時間をベッドで眠って過ごすことになっているぐらいだ。

「こんな姿になってもまだ好きでいる僕は重症かもしれないね」

返事が無いことは解っていても声をかけずにはいられない。
骨の浮き出た白い手を包み込むように握り、祈るように額に寄せた。

「ごめんね」

もっとこの世を堪能して人生を謳歌して欲しかった。
それでも、どうしようも無いぐらい

「愛してるよ」





「何だか死の直前…二年前ぐらいからガリガリ寿命削れてますね。不自然なぐらいガリガリと」

「マジっすか、病気になったから仕方がないと思ってたんですけどそんなに削れてたんですか
ちなみに割合的にはどのぐらい……?」

「ゲームで言えば同レベルの敵との対戦中に3ターン連続でクリティカルが出たぐらいの削れ幅ですね」

「もはやゴリッゴリじゃないっすか、ガリガリ君もびっくりですよ」

「ガリガリ君は言うほどガリガリではありませんしね」

オッス!オラ沢渡和泉!!だいぶん前に死んじまっただ!!
短い人生だったが別に未練的な未練は無ぇし構わねぇだ!!

人生可も無く不可も無く、人間関係にも恵まれて、クッッッソ痛かったけど死後は一回舌を抜かれるだけで済んで天国行が確定してるわけですが、なんか寿命の減り方がおかしいので閻魔殿まで行って調べて貰えとの御達示があったわけなのさ。
なんかアレみたい。定期検診。

「で、色々と調べた所……和泉さん、貴女碌でもない神獣と接触しましたね?」

「神獣、ですか?動物の類は近所の犬ぐらいしか接点なんて無いですけど」

首を傾げると鬼灯さんはサラサラと似顔絵を描きはじめました。

「正確には白澤さんというナンパ野郎なんですが」

「あー白澤さん!」

知ってる知ってる、と手を打ってから思わず動きを止めた。

「……え?白澤さん?あの女好きが神獣?」

「はい、その碌でなしです」

「あれが神獣とか世も末だわー……
でも何故白澤さんに接触したことで寿命がガリガリ君になるのに繋がるんです?」

鬼灯さんは白澤さんの似顔絵を縦に裂きながら「それはですね」と説明を初めてくれたわけだが、鬼灯さんは何か白澤さんに怨みでもあるのだろうかというぐらい陰湿に破いている。

「神から愛される人は長生きしない、というのを知っていますか?」

「いえ……」

そんなのは知らない。
説明を求めて鬼灯さんを見ると鬼灯さんは丁寧に説明をしてくれた。
曰く、愛する存在は近くにいて欲しい物なので神側、つまりあの世に魂が連れて行かれやすくなるということらしい。

「つまり私は白澤さんに愛されちゃったんですか」

「そういうことだと思います」

「白澤さんがどちらにいるかわかりますか?」

「天国の桃源郷に住んでいますが……どうするんですか?」

鬼灯さんの質問に私は微笑んで答えた。

「白澤さんに、会わせてください」



桃源郷は甘い桃の香が漂っていて暖かく心地の良い場所だった。
草を食べたり昼寝をしたりと思い思いの行動をしているウサギの中の一匹が鬼灯さんの足元に近付いてきて、鬼灯さんは意外と慣れた手つきで抱き上げた。
……これが、ギャップ萌え。

「到着しました、ここが奴のアジトです」

「白澤さんは悪の組織か何かですか」

まぁ白澤さんが何であろうとどうでもいい。
柔らかな芝生の感触を足で堪能していると、大量の桃を収穫したらしく籠を背負った人物がこちらに向かって来ているのが見えた。

「あれ?鬼灯さん?白澤様に御用事ですか?」

「えぇ、正確には用があるのは私ではなく和泉さんですが…」

「初めまして、沢渡和泉です」

頭を下げると男の人はペコッと軽く頭を下げた

「初めまして、桃太郎です」

「も、桃太郎!?」

どういうことなの…?
驚愕していると鬼灯さんから「ここはあの世なのですから可笑しい話しではありません」と説明してくれた。
有名人って言っても、物語の人物だと思ってた……

「えっと……きびだんご美味しいです」

「えっと……ありがとうございます?」

話題とかそんなん思い付くわけ無いだろうが!!

「あ、白澤様!白澤様呼んできますね!!」

「あ、はい、よろしくお願いします」

頭を下げると桃太郎さんは家の中に入って行った。
ガシャーンっ!!と物が壊れる音がしてバタバタと足音が聞こえ初めた。
しばらくして出て来たのは桃太郎さん一人。

「あ、あのー……留守にしてる、みたいです」

「ダウト」

明らかに嘘をついてる。
ジッと見ると桃太郎さんはいたたまれない表情で目を逸らした。

「白澤さんは何処に?」

「えーっと……薬の材料を買いに、ちょっと遠出しに?」

言い訳が随分と大雑把だ。

その時、家の裏から白い大きな生物が出ていくのが見えた。

「あぁー裏口から神獣姿の白澤さんが逃げ出そうとしています!!」

「わかりやすい解説棒読みありがとうございます!!やっぱり白澤さんか!!」

追いかけようにも相手は飛んでいるから無理だ。
きぃいいっ!!と歯を食いしばる間も無く

高速で

飛んで行った

黒い

物体が


「げふっ!!」


白澤さんの胴体に直撃した


「は、白澤さん!?死ぬ!?」

「あれでも神獣ですからこのぐらいじゃ死にませんよ」

そんな物なのかと墜落した白澤さんの近くに寄ってみる。
近くには鬼灯さんの金棒が落ちていた。
投げるというよりは発射される勢いだったがとりあえずこれが原因か。

伸びている白澤さんの頬に触れると予想以上にモフモフしていた。

「白澤さん」

「うー…ん」

しゅるる、と人間の姿に戻ったと思えば白澤さんは目を覚ました。
そして間近にある私の顔を見て後退った。

「逃げんなや」

ギリギリギリギリギリギリと、白澤さんの骨が軋んでいる音がするが気にしたら負けだろう。
白澤さんが痛いと喚くのが煩いので手を少しだけ緩める。

「ひ、久しぶりだね…和泉ちゃん」

「はいお久しぶりです白澤さん」

白澤さんは目を合わせてくれない。申し訳なさそうに目を逸らすばかりだ。
しばらくそうしていると白澤さんは恐る恐る私を見た

「……怨んでる?」

ようやく白澤さんが口を開いてくれたと思ったらその一言だ。
白澤さんの手をそっと取ってから

中指と薬指を無理矢理開く

「痛い痛い痛い痛い痛い!!!!なんなの!?」

「いや、なんか……すっごいムカついたから……うっかり……」

「うっかりで人の指裂こうとしないでよ!!」

いや、だってムカつきますし。
だって逃げるし、怨んでる?とか聞いてくるし……

「私は白澤さんが逃げようとしたことに腹を立ててます
何故私から逃げるんですか、また逃げよう物なら本気で指を裂きます」

白澤さんはダラダラと冷や汗を流しながらぎゅっと強く唇を紡いだ。
眉を下げて叱られた子供のように目を逸らした

「……嫌われるのが、恐かったから
和泉ちゃんに会わないでいられれば面と向かって嫌いだって言われないで済むと思った、から」

予想外の回答に思わず小さく笑ってしまう。
白澤さんに腕を真っ直ぐ伸ばして抱き寄せると白澤さんがビクリと身じろぎしたのを感じた。

「馬鹿ですね、白澤さん」

「……愛しちゃって、ゴメン」

「本当に馬鹿だ
寿命を削られたぐらいで私が白澤さんを恨むわけが無いじゃないですか」

白澤さんに頬を寄せて有りったけの気持ちが伝わるように耳元で囁く

「私も愛してます、愛してくれてありがとう」

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