短編 | ナノ


▼ 凛と再会

スイミングスクール繋がりでハルや真琴や渚とつるむことが多かったが他に友達がいなかったわけではない。
だからたまに岩鳶の方へ来ると小学生の頃の知り合いに声をかけられることがある。
その時は当たり障り無く長引かせないで軽く交わす。
だから今回もその類の物だと思った。

「あれ、凛?もしかして松岡凛?」

そう声をかけられて振り向くと、見覚えの無い女が立っていた。
十中八九思い出せないだけだろうが、女子に下の名前を呼び捨てにされるぐらいに仲がよかった奴の中にこの女の顔が一致する奴がいない。

女子高生、という雰囲気をこれでもかというぐらいに押し出して、短く折られたスカートからは触り心地のよさそうなむっちりとした太ももが覗いている。
主張しすぎずそれでも無い訳でも無く、手の平に収まるかはみ出すか検証してみたくなるサイズの胸、腰はぺっこりと括れていて出る所は出ていて引っ込む所は引っ込むという、アレな言い方をすれば抱いてみたくなる体つきをした女だ。

なかなか好みだ。

もしもこの女がグラビア雑誌の表紙を飾っていたならば表紙買いしてしまうだろうというぐらいには好みだ。

「随分背伸びたねー、真琴と遙には聞いてたけど帰ってきてたとは
元気にしてた?無病息災?」

「あぁ…」

誰だお前、とは聞き辛い。
真琴と遙と呼んでいるということは確実にそれなりに仲がよかった奴なんだろうがまったく思い出せない。
仲がよかった女子といえば同じ委員会だった大人しめの女子か
それとも喧嘩をすれば男子でも問答無用で泣かしていた恐怖の大魔王的な男子みたいな女子か
もしくはあの年齢で既にマセていて二股三股四股とかけていて学級会議にまで発展した女子か
はたまた自由人すぎて学校をよく休んでは旅の雑技団に所属していたという噂が立っていた女子か

……正直どいつも今のこの女とは一致しない。
マセていた女子は泣き黒子が印象的だったのを覚えているがこの女には無い。
隣に並んできたその女からは清潔感を感じさせる石鹸の香がした。
わかってやがる、こいつ、男心をわかってやがる。
香水の匂いを好む男もいるが、石鹸等の清潔感のある匂いを好む男の方が多い、と何かのテレビでやっていたのを思い出した。

「凛は鮫柄?私は岩鳶なんだよねー男子校ってどうよ?楽しい?」

「普通だろ」

だからお前は誰だ。
好みなだけあって気になる。もしもこの女が一方的に俺のことを知っているだけであっても名前を聞き出して連絡先を交換してもらいたい所だ。

「…凛、私のこと覚えてないでしょ?」

「……」

気まずくて視線を逸らせば何故か女は勝ち誇った顔をした。

「よっしゃ!!ざまあみろ!!!これでもう男女とは言わせない!!」

拳を振り上げて愉快そうに言い切った女を見て同じモーションをした奴を思い出した
それは確か給食のデザートジャンケンであいつが勝ったときに見たあのモーションだ…つまり

「ま、まさか……沢渡、和泉か…?」

「やっとわかったか凛ちゃーん」

にしし、と笑う昔の和泉と表情が被る。
昔の和泉は男の俺よりも髪を短くしていてスカートなんてはけるかと言っていつも短パンで走り回るせいで足にはいつも絆創膏を貼っていて
木に登るし川では泳ぐわ草村で虫を捕まえて俺に放り投げてくるわ世間話に交えていきなり怖い話しをしはじめて真琴を泣かすわカエルを俺に投げつけてくるわ遙とスイカの早食い対決をして圧勝するわ
冬になれば雪玉を俺にぶつけてくるわ、喧嘩と聞けば冷やかしに走りイジメと聞けば多勢に無勢であろうともすき放題暴れ回りドッジボールでは俺に有り得ない剛速球を投げ付けてきたりした沢渡和泉だ。

あの和泉が、こんな女らしくなったとは

開いた口が塞がらないとはこのことである。

「いっつもいっつも凛には男みたいだとかゴリラ女とか恐怖の大魔王とか言われてきたからね
帰ってきた凜を見返してやるために全力で努力してやったわ」

ふふん、と胸を張る和泉。
短髪でいつも顔に絆創膏を貼っていて女子とは思えない振る舞いしかしていなかったけれど、確かに顔は可愛かった。
…恥ずかしかったから絶対に言ってやらかなったけど。

「どうよ、少しは女らしくなれた…かな…?」

少し不安げに語尾が小さくなる。
窺うようにして俺を見てくる視線がグッとくる。

…良い。かなり良い。

「努力は認めてやるよ」

素直に褒めるのは恥ずかしくてつい素っ気ない言葉になってしまった。
が、和泉は満足したようで満面の笑みを浮かべていた。
prev / next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -