短編 | ナノ


▼ ハリネズミのジレンマ

部活の帰りに高尾の家に邪魔することになった。
普通の一軒家の庭に自転車とリアカーが合体したチャリアカーを駐輪して高尾が玄関を開ける

「ただいまー」

階段からちょうど降りてきた、高尾にそっくりな少女がチラリと高尾を見て静かな声で「おかえり」と言った。
挨拶として「お邪魔します」と言えば高尾妹と思われる少女はペコリと頭を下げて小さな声で「ごゆっくり」と言った
そのまま別の部屋のドアを開けてその中へ入っていった

「さっきのは俺の妹ね」

「…お前とは随分違うのだな」

そう言うと高尾はニッと笑った

「人見知りっつーの?可愛いっしょ」

それだけ言って高尾は自室へ案内するように先導して上がっていった。




「…こんにちは」

「…あぁ」

高尾妹、こと高尾和泉と街中で遭遇したのは最早運命だと思った。
本日のラッキーアイテム、ピンクの服が歩いてそちらから来たのだ。運命以外の何者でもない。
時間があるらしい高尾妹に少し話でもしないかと声をかけて現在人気の少ない喫茶店にいる。

「緑間さん…ですよね、お兄ちゃんがいつも言ってる“真ちゃん”っていうのは」

「あぁ」

確認するように聞いてくる和泉に頷けば和泉は少し俯くようにして笑った

「よかった、私と同じようにお兄ちゃんってあんまり明るくないし喋る方でもないし
友達少ないから、緑間さんみたいにお兄ちゃんが心を開ける人ができて」

和泉の言葉に瞠目した。
和泉よ、それは一体誰のことを言っているのだよ
あいつは鬱陶しいほど五月蝿くてテンションが高すぎて出会って早々に他人を真ちゃんなどと馴れ馴れしく呼び出すし
同学年の奴は全員友人なのではないだろうかと言うほどに交友関係の広い奴なのだよ

「お兄ちゃんのこと、これからもよろしくお願いします」

そう言って和泉は微笑んで頭を下げた。




「この前お前の妹にあったのだよ」

「え、和泉に?」

この前のことをふと話すと、高尾は目を丸くした。

「いつ?どこで?何か話したの?」

高尾が身を乗り出すようにして聞いてくるのを頭を抑えて止める

「先週の日曜日に街中で出会ってそのまましばらく喫茶店で話したのだよ」

「へぇー…」

唇を尖らせて相槌をうつ高尾はどことなく不満そうだった

「これからも高尾のことをよろしくと言われたのだよ」

「俺の話してたの?」

「それ以外に共通点は無いからな」

そう言うと高尾は「それもそっか」と言ってからにんまりと弧を描こうとする口を押さえていた

「何をニヤついているのだよ、気持ち悪い」

「きもっ!?」

なぬっ!?とでも言わんばかりに固まった高尾に理由を話すのを促すようにじっと見ると、高尾は視線を落として言葉を選びながら話し始めた

「和泉がさ、俺のこと思ってくれたってのが嬉しいんだ
普段からあんまり話とかしねぇし真ちゃんが来た時会話したのも結構話した方に入るし」

「どれだけ話してないのだよ…」

ただいま、おかえりだけのやり取りが話したほうってどんな兄妹なのだよ
いや、自分は一人っ子だから世間的にそれが普通なのかもしれないけれども

「…なぁ、真ちゃん」

高尾の目が不安そうに揺れていた

「和泉、俺のことウザイとかむかつくとか言ってなかった?
俺、和泉に嫌われてない?」

高尾が縋るように聞いてくる
何だかんだと軽い男のように見える高尾は本当は中々の硬派で普段の練習も俺に張り合うようにしていて根性だってある奴だ。
そんな奴が不安に揺らいでしまうのが妹という存在
縋っている高尾の目を見たくなくて思わずデコピンを食らわせると「イテッ!」と短く悲鳴を上げた

「お前の妹がお前のことを嫌っている素振りは一切無かったのだよ
それどころかお前のことを心配していたのだよ」

ふん、と憤慨しつつ眼鏡のフレームを指で上げると、高尾はポカンとしてから噛み締めるように「ふへへっ」と笑った

prev / next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -