▼ とんでもむすめ
僕の隣の席の沢渡さんは可愛い。
小動物的な動きや、撫でたくなるような頭だとか、これでもかと言わんばかりに男心をくすぐる容姿をしている。
「くろこ君」と舌足らずな感じで呼んでくる所とか、へにゃ、とした笑顔だとか。
日々僕も男心を擽られて生活している訳ですが恋愛感情とかでは無く、沢渡さんは僕にとって愛でる対象となっている。
そうしてある日偶然僕に用事があって教室まで来た赤司くんは、僕とは違い恋愛感情で心奪われたそうな。
「どうすれば沢渡さんと仲良くなれる?」と相談を持ち掛けられたのでとりあえず「友人になるきっかけを頑張って作ってみたらどうでしょう?」とアドバイスにもならないアドバイスをしておいた。
それが
「沢渡和泉、男子バスケ部のマネージャーになれ」
どうしてこうなった
沢渡さんは自分の目の前で威圧を放つ赤司くんに恐縮してプルプル振るえている。
「あ、の…無理です…」
沢渡さんは勇気を振り絞って赤司くんに反論した。
赤司くん、気付いてくださいそれでは無理です!!
沢渡さんはデリケートなんです!!通常の女子が子猫程度の強度であるとしたら沢渡さんは豆腐、赤司くんが好きな豆腐ぐらいの強度しか無いんです!!
一度体制を整えてから出直すんです!
そして僕と一から話し合って作戦を練りましょう!
「俺の言うことは絶対だ」
赤司選手一歩も退かない!!
赤司くんにとって退く=敗北なんでしょうか!?
さすが赤司くん!!全てに勝つ僕はスベスベお肌!!
でも赤司くん戦略的撤退してください!!このままだと敗北まっしぐらですよ!!
「あ、う…え…」
ほら!沢渡さんも困ってる!!ソワソワしてる!!
泣きそうになってる!!
「もう一度言う、俺の言うことは絶対だ。
沢渡和泉、バスケ部のマネージャーになれ」
「う…」
沢渡さんもうチワワみたいになっているじゃないですか!
やめてあげてください赤司くん!!
沢渡は不意にゴソゴソと筆箱を漁りはじめた。
テレレレッテレーン!カッターナイフー!!
え、カッターナイフ?
そのカッターナイフの歯をチキチキと延ばして左手首にそっと
「何やってるんだ!!」
赤司くんが慌てて沢渡さんの腕を掴んで止めるが、沢渡さんは意味がわからないと言いたげに困惑気味だ
意味がわからないのはこっちの方だ。
「え、えっと…あなたの言うことは絶対で、バスケ部のマネージャーに私は絶対ならなきゃいけなくて、でも私はバスケ部のマネージャーになりたくないから死ぬしか無いかなって」
「飛躍しすぎだ!!」
沢渡さんぶっ飛んでますね
赤司くんが沢渡さんの手からカッターを奪うと沢渡さんは困り顔になった
「でも死ぬしか無いですよね?」
「死ななくていい!死ななくていいから、俺が悪かったから落ち着け!」
沢渡さんのとんでも娘っぷりを垣間見たその日の部活の後、照れ顔で「沢渡さんにあんなに触れてしまってセクハラだとか思われてないだろうか?」と言ってきた赤司くんを見て、僕は恋は盲目だなぁと思いました。
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