武蔵と小次郎

チチチ、と小鳥のさえずる音が聞こえて小次郎は意識を覚醒させた。
未だ微睡みの中で溶けている頭にあの高音は少々辛い。うっすらと目蓋を開けると障子の隙間から朝日が伸びているのが見えて思わず目を細めた。

もう朝なのか。
薄ぼんやりと四肢を投げ出したままそんなような事を考える。起き上がる気には到底なれない。身体が物理的にも精神的にも重い。剥き出しの己の胸に乗っているのは腕か。ゆるゆると視線を横にずらすとかたい髪の毛が頬に当たっている事に気づいた。

誰かなど考えるまでもなく分かっている。大方昨夜散々閨を共にし疲れ果ててそのまま眠ってしまったと言った所だろう。まさか己がへとへとになるまで消耗するとは思ってもなかった。想像以上に獣だったと言うことだろうか、目覚めさせたのは確実に己だろうが。


「……武蔵、朝だよ」

首だけを動かして未だ夢の中の武蔵に囁く。小次郎を抱きすくめるような形で眠っている武蔵は全く微動だにしない。完璧に熟睡している。
小次郎はわざとらしくため息をつくと酷く怠い身体を起こし、乱れた衣服を直しつつ外の様子を伺った。

朝鳥はチュンチュンとさえずっているが、よくよくみると景色はまだ寒々しく、朝と呼ぶには少々早い印象を受けた。なんだまだこんな時間なのか……と改めて周辺を見回すと、なるほど昨夜の酷さが改めて分かる乱れぶりである。衣服は散乱しているし、杯は転がしっぱなしであるし、挙げ句の果てには立て掛けていたはずの己の獲物が倒れてしまっている。

酒が進んでいて気分が良かったのは分かるし、はじめから己が伽を共にする気でいたのも分かっている。と言うか酔わせて襲ったのは自分だ。だがこの乱れぶりは想定していない。……ついでに武蔵が思ったより獣であった事も想定外である。
部屋が汚くなろうが別段困る訳ではないのだが、自分がここまで羽目を外してしまった事実にただただ驚いていた。



ちらりと爆睡中の武蔵を盗み見る。すやすやと気持ち良さそうに眠る顔はなんとなく幼い。昨夜の武蔵はどんなだったかとふと思考を巡らせて、らしくもなく頬が熱くなったので小さくかぶりを振って打ち消した。

未だ朝と呼ぶには早い時間帯ではあるが、意識が覚醒してしまったものはしょうがない。なんとか起きて消耗した身体をどうにかしなくては。とりあえず部屋を片付けた方が良いだろうか。


「う、」

立ち上がろうと床に置いた腕に体重をかけたその時、何故か急に腰に重みがかかって小次郎はもと居た布団の中に倒れこんだ。もと居た場所にもと居た状態で倒れたと言うことは、武蔵に抱き締められている状態であると言うことである。


「………急に離れんなよ、寒ぃだろ…」

耳元でそう呟かれては小次郎に反論する術はない。数回瞬きした後、やれやれと軽く吐息を吐いて小次郎は観念したように目蓋を閉じた。
もう少しだけこの温もりに触れていよう。片付けも何もかも後回しにしたってきっとバチは当たらないだろう。

武蔵がしているように小次郎も背中に腕を回し、武蔵が目覚めるその時までこの微睡みに甘えることにしたのだった。












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むさこじって頻繁にヤらかしている気がして以下略



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