主より!

壊れた扇風機



開け放たれた窓からは微塵の風も吹き込まず、高度を増した太陽は容赦なく室内の温度を上昇させる


ガタガタと不機嫌な音を上げて回る扇風機の前に陣取り、私とアポロンはその温風を恩恵か何かのように貪った


「あちー……」


アポロンはシャツのボタンを全開にし、大股を広げてこめかみから伝う汗を拭っている


仮にも太陽の神の名を戴いているのだから、そこまでだらけるのはどうなのかと言いたくなるが、敢えて黙っていることにした



対するアポロンは先程から暑いだのその仮面は蒸れないのかだのと私に話しかけてくるが、私は頷いたり首を横に振ったりして応えるだけで口を開くことはしなかった


それでもそれだけで満足なのか、アポロンは汗ばむ顔をくしゃくしゃにして笑顔を作った


「……」


その笑顔に、胸が苦しくなる
もうずっと前からそうなのだ。まるで太陽そのもののように明るく笑う彼を見ていると、たまらない気持ちになる


決してそれが嫌だというわけではない。寧ろ私にとって歓迎すべき事実なのだろうと思う


今はまだ、名前を付けることはしていない曖昧なままの感情

もうすぐ否が応でも値する名を付けねばならないときが来る


……いや


本当はもう分かっている

私が彼に感じるこの苦しさ、悲しみにも似た切なさ、言い知れぬ愛おしさの正体


「喉渇いたなー……」


私の思考を中断させ現実に引き戻したのは、アポロンのそんな呟きだった


仮面越しに彼を見ると、彼もまた私を見ていた


視線が絡まる


胸が脈打った



「アルテミス……」


彼はおもむろに私の仮面に手を伸ばし、その厚い塊を引き離した

そして私の身体に身を寄せる


首筋にざらりと濡れた感覚を覚えた


肌が粟立つ

嫌悪からではない、それとは似ても似つかぬものが私の内側から首をもたげている


幾度か繰り返し薄い肌を舐め上げられると、いよいよ私は堪えられなくなって彼の身体を押し返した


「アポロン、」

「あ、やっと喋ったな」



若干上擦った声を発すると、彼は嬉しそうに笑っていて

戸惑った私は意味もなく視線を逸らし、赤らむ頬を隠そうと仮面に手を伸ばした


「水分補給してたんだ」


アポロンは仮面をとらえかけた私の手を掴んだ

水分補給?


つまり、私の汗を舐めていたということか?


「嫌だったか?」


問われ、いいえ、と小さく応えた


嫌悪感など感じなかった

だって、ああ、やはり


私は−−


「なぁ、俺さ、お前のこと−−」


ガタン!!


その吐息を間近に感じた瞬間、彼の後方からけたたましい音が上がった


そろって目をやると、扇風機のカバーが外れてガタガタと羽根が危うい状態で回っていた


「あーあ、壊れちまった」


私から身体を離して、彼が外れたカバーを持ち上げて見せた

部品が破損したようで、このままでは使い物になりそうにない


「図書館でも行くか!」
何事も無かったかのように笑ってみせるアポロンを見て、私も微笑んで頷いた

そうして再び仮面を付ける


−−アポロン


いつか貴方の言葉の続きを聞ける日が来たのなら、私も言います

太陽そのもののように笑う貴方が、いとしいのですと






















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フリリクでまたもや主にサプライズされたの巻

主はきっとモブを興奮と萌えと驚きで発狂させようとしているに違いない
こんな素晴らしい文章書きやがってえ!動機がやばいじゃねえか!ありがとう!!

このちょっとあやしい雰囲気がたまりませんなァ…新たな萌えをありがとう主、本当にありがとう

感謝するの巻でした!気が向いたらまた書いてn((アッー