主より!

かくもこの世は



かくもこの世は生き辛い


俺はヘパイスと並んで防波堤に腰掛け、膝を抱えて真っ暗な海を見つめていた

全てを飲み込んでしまいそうな、奈落のような海面。轟々と獣のような声を上げている

風は強い


「この世界は薄汚いと思わないかい?」


闇に溶ける藍色の髪を海風に靡かせながら、ヘパイスが小さく笑った

その声は決して大きくはなかったが、この轟音の中でもかき消されることなく俺の耳に届いた


「俺達だって、汚いだろ」


自分達の実力でもないくせに、神になったつもりで沢山のものを踏みにじった

そのくせ一度敗北の苦汁を味わっただけで、あっけなく砕け散る程の脆い強さしか持ち合わせていなかった


「一番汚いのは、僕達を利用したあいつだよ」


ヘパイスは笑みを消して奈落を見つめた

その横顔に目をやって、ああ、綺麗だなと漠然と感じた


月明かりもない闇夜だが、何故かヘパイスの周囲だけはぼんやりと光を帯びたようで、その姿を見て取ることが出来る


「利用される方が馬鹿なんだ」


そう、俺達が馬鹿だっただけ

海鳴りに飲み込まれそうな呟きを、ヘパイスはしっかりと拾い上げていたようで、濁りのない瞳が俺を捉えた


何かを見透かされそうで、俺は視線を闇の海へと戻す


「この世界は、生き辛い」


俺みたいな脆弱な愚者には、あまりにも生き辛い

自分の腕に爪を立て、奥歯を食いしばる


そうでもしないと荒波のように暴れる感情に押し流されてしまいそうだった


ヘパイスは何を思ったのか、そんな俺の手を取った


「ヘパイス……?」

「なら、終わりにしようか」


言葉の意図が理解出来ず間抜けにも黙り込んだ俺に、ヘパイスはふわりと笑いかけた


「ここに飛び込めば、終わらせられるよ」


今すぐにね


そう言って指差されたのは、眼下に広がる黒一色の水の世界

俺は喉の奥で嗤った

「冗談だろ」

「本気だよ。ヘラが望むなら」


繋がれた手、指が絡められ、落とされる唇

気障な仕草もヘパイスがやると様になるな、なんて場違いなことを考えながら、俺は幼子のように小首を傾げた


「一緒に?」

「一緒に」

「なら、行かない」

「何か不満かい?」


俺は小さくかぶりを振る

寧ろその逆だ


満足すぎる程の応えをもらった。だから俺は、この奈落に沈む必要はない


「お前が一緒なら、生きてそれを味わいたい」


俺の言葉を受けたヘパイスは、一瞬目を見張った後、成る程、と微笑した


「同感だな。君と一緒なら、生きていた方が幸せだ」

「だろう?」


月も星もない漆黒の世界、足元には地獄へ続く水を湛え、俺達は互いのぬくもりに身を委ねた


この世界は薄汚い

そして生き辛く、暗い


−−ああ、それでも


お前と、君と、生きる世界は



かくも美しい









--------------------------------------------------------------------------------


鷲香芽もらったと思ったらヘパヘラももらったでござるの巻←

主が太っ腹すぎて生きるのが楽しい…ハァハァ

二人の相思相愛っぷりにモブは鼻血がでた訳でございます^P^P^P^その文才をモブに分けてくれハァハァ!


主本当にありがとう!!大好き!!