ホワイトデーの放課後。 サッカー部員は、女の子に照れながらお返しを渡しに行ったり、そんな男子生徒をからかったり。 部室に溜まっている彼らは一日中そんなことを繰り返して、いい加減に飽きてきたところだった。 「ホワイトデーだけどさ、バレンタインにチョコ貰えなかったし、特にイベントもないよ」 そう言って、背もたれに寄りかかる霧野は、不満そうに見える。 浜野、速水、倉間の三人組がそろってお返しを渡しに出かけたのを見て、おもしろくないのだ。 「未だに気にしてるのか?」 神童が声をかけても、霧野は「うるさいな」とばかりに顔を背けた。 錦も横から口出しして、 「あいつらですらもらえたのに、自分がチョコをもらえんかったと」 と、からかったが、霧野はうなるだけだった。 「彼女持ちは余裕だな、錦」 「まぁな」錦はニヤリと笑い、「練習の後で遊びに行くぜよ」と自慢げだった。 「練習後のこと、少し話して来るから」 錦はそう言い残すと、ひとり部室を出て行った。 部室に残っているのは、神童と霧野の、ふたり。 「神童は、行かないのかよ」 霧野が先に口を開いた。 「休み時間とかに全部済ませたから」 「ふうん」 しばらく、沈黙。神童は気にせず靴の手入れをしているが、霧野はひとりでソワソワしている。 「お返しに何かあげたのか」 「定番のクッキー」 「高級なんだろうな」 「いや、手作りだよ。女子が手作りしてくれたんだから、お返しも同じく手作りのほうが良いかと思ってさ」 霧野はそれを聞いて「手作りか…」と小さく呟いた。 「え?なんか言った?」 「別に!」 霧野はまたそれっきり、口を閉ざしてしまった。 「お前も食う?」 神童の右手に握られているのは、きちんとラッピングされたクッキーの小袋。 「あげる。これ、本当は、お前のじゃないけど」 「いいのか?」 「いいよ。ハッピーホワイトデー」 霧野は丁寧に包みを開け、ひとつずつ摘み、クッキーを齧った。 「本命だからね。美味しく食べてくれよ」 「ほ…本命…もしかして神童…俺のこと…?」 「そんなわけないだろうが」 あはは、と笑いあう2人の声が部室に響いていた。 -------- 天馬「わーい!三国先輩からクッキーもらったー!」 西園「わーい!わーい!」 三国「一年生は可愛いなぁ」 [コメント] [目次] |