大木戸研究所





12月24日、クリスマスイブ。
街は甘い幻想につつまれてクリスマスキャロルが響くなか幸せそうに歩く人たち……




「バーニングキャッチ!!」




雷門中サッカー部はクリスマスなど関係なしに特訓に熱中していた。

「今日の練習はおわりだ!天気が崩れるそうなので早く帰ること」

監督の指示でみんなグランドに集まってきた。はあはあ出す息が白く漂っている。

「解散!」

「ありがとうございました!」

みんながぞろぞろ部室へもどっていく。その流れに反して、霧野と神童だけが再びサッカーボールを蹴ってグランドに走り出した。

「おふたりとも特訓ですか?」

「ちゅーかおまえら帰らないのかよ」

チームメイトの声に手を振り、ふたりはまたボールを蹴った。







バタンと豪快に戸を閉めて、シャワー室から霧野が出てきた。さきに上がっていた神童がドライアーで髪を乾かしている。

「お疲れさま」

霧野はタオルで頭をゴシゴシやりながら、神童の隣に座った。

「神童って女みたいに髪を乾かすのな」

「うるさい」

霧野こそ女みたいなくせに、という言葉を神童はぐっとこらえる。

「ちゃんと乾かさないと髪がひろがるからね」

髪を乾かし終えると、神童はロッカーを開けて制服に着替えはじめた。手際よく支度を整えると、鞄を手に取り、ローファーにはきかえる。

「ちょっとちょっと……もう帰るのか?」

驚いた様子で霧野が神童を制止した。

「今日の特訓はもう終わったからね。確かな手応えを感じられるまで粘った甲斐があったな。良い特訓だった」

神童は笑顔で答えて、ドアノブに手をかけた。

「外は寒いぞ」

霧野が焦って声をかけると同時に、神童はドアを開けた。

雨が降っていた。

ざあざあと本降りになった雨が部屋の中にまで降り注いでくる。

「雨がやむまでちょっと待ってけば?」

霧野が笑顔で言った。





ストーブの上でやかんがシューシュー音をたてている。
霧野は立ち上がると、部室に備え付けられた簡単な給湯室にむかった。

「紅茶を一杯のまないか?」

「じゃあ、すこしだけ頂こうかな」

神童はベンチに座りソワソワしている。
落ち着きなく、なんとなくバッグをいじったりしている。

理由はわかっていた。

やがて、
霧野がティーカップを持って戻ってきた。

「ティーバックだけど」

「構わないよ。ありがとう」

神童はそっとカップを傾ける。構わないと言いつつもちょっと顔をしかめた。

「となりに座っていい?少し近づいても……」

「少しだけだぞ」

念を押したにもかかわらず、霧野はぴったりくっつくように座った。

「ちゃんと乾かしたからかなあ、神童の髪はサラサラだ」

「もう……そんなことないよ」

ひらいた指を髪にからめていく霧野から離れるように、神童は腰を浮かせ座りなおした。

「あーあ傷ついちゃうなぁ」

霧野が甘い声で言う。

「もう帰らなくちゃ。今日は家族でクリスマスディナーなんだ。あまり遅くなると父や母が心配する」

「俺も君にいてほしいんだ」

「急いで帰らないと」

神童は飲みかけのカップを置いてベンチから立ち上がろうとした。
すかさず、神童の膝の上に霧野は手をのせていかせないようにする。

「外は寒いぜ。せめてカラダが温まるまで、紅茶を飲んでストーブにあたっていけよ」

「紅茶は不味い」

「君の唇は美味しそうだけどな」

神童は霧野を両手でつきとばした。霧野は構わずニッコリ笑っている。

「冷たい手だ、俺があたためてやるよ」

「誰かが帰ってきたらどうするの、変なウワサが立っちゃうかもしれないし……」

神童が顔をそむけているのに、霧野は背中から回って腰に手を回す。

「街はクリスマス一色だし、ここでもラブソングをかけてもいいだろ?」

神童は拒絶しようとしたが、しようとはしたが、
ティーカップにふたたびくちをつけ、紅茶で唇をぬらした。

「意地をはるなよ」

神童の頬を両手でそっとおさえ、霧野は自分に顔を向けさせた。

「おまえの目は星のように輝いてるな」

「なにか紅茶に入れた?」

ふたりは魔法にかかったかのように暫くの間じっとみつめあった。

「本当に、もう、帰らなくちゃ」

神童は急いでバッグを持ち立ち上がる。

「寒くて寒くて凍えるぞ、神童がもし風邪をひいて肺炎になって死んじゃったら、俺、泣きながら一生過ごすことになっちゃう」

「そんなこと言って、明日になれば部活して……狩屋と特訓するんだろ」

霧野は傷ついた顔をしてみせた。

「そんなに寒いならコートを貸してくれないか?」

「サイズが合うかな……」

「ぴったりだよ」

神童は霧野からコートを受け取り――すこしふれた手にドキッとして――部室のドアノブに手をかけた。

「あぁ、でも、外は寒いよ」

霧野が懇願して声をかけると同時に、神童はドアを開けた。


雪が降っていた。


クリスマスイブの稲妻町に真っ白の雪が舞い踊っていた。
神童はふりかえると微笑んでみせた。



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クリスマスということで、
うちのサイトのイチャラブふたりで甘口です!
映画『水着の女王』より米クリスマス定番ソングを聴いて、
かわいいふたりを想像しちゃいましたw




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