ガサガサ… 誰もいないはずの部室から物音がする。 「鳥?犬?」 それにしては音が大きい。 お返しのチョコレートの山を配り終え、部室で一息入れに戻ったものの、なにやら不審な雰囲気。 「…もしかして、泥棒?」 キャプテンたるもの見逃せない。 作戦ノートを探しに敵の部室に忍び込むなんて、マンガに出てくるお決まりのパターンではないか。 「雷門は神童が守ってみせる!!」 こっちも息を殺して、静かに足を進めた。 人影は俺のロッカーにいた。 大人には身長が足りない、小柄な姿がわかる。 「やっぱり敵チームの仕業だ!」 俺は一気に間合いを詰めて、両腕を後ろ手に取り締め上げた。 「痛い!なにするんだ?」 「この泥棒!自分がなにをやっているかわかっているの?」 「離せよ…神童!」 あれ? 聞き覚えのある声。 不届き生徒を捕らえたまま、電灯を付ける。 「霧野!?」 桃色ふたつ結びの髪型は、間違いなく俺の幼馴染みだった。 「わかってもらえたか?」 霧野は驚いた俺の腕からすり抜けて、肩からかけたカバンを庇うように抱えた。 「俺のロッカーで何をしていた?」 「あ…あの ほら、今日は何の日か覚えてるか!?」 「始めて一緒にディズニーランドに行った記念日か?」 「違う!それじゃなくて!……即答できる神童も怖いけどな」 「蘭ちゃんとの記念日は全て把握してあるよ」 霧野は照れてるんだか何なんだか顔までピンク色にしていた。 なんだよ、当たり前のことではないか。 「ホワイトデーのお返しだ!受け取って…くれるよな?」 カバンから霧野は小さなハートの箱を取り出して、俺に差し出した。 「中身はクッキー?」 霧野がお菓子作りなんて想像出来ない。三国先輩じゃあるまいし。 少ないお小遣いを工面して俺の為に買ってくれたのかな。 「な、泣くなよ神童!? 気に入らなかったのか…?」 「嬉し涙だ…!」 グシュグシュ鼻水をすすって受け取る。 感激………って、あれ?? ちょっと待てよ。 俺、バレンタインデーに、 コイツにチョコレートあげたっけ? 「じゃあな!さらばだ神童!」 「オイ…なにか俺に隠してないか?」 ドキッ! っていう効果音がいまにも聞こえるくらいのリアクションで霧野が立ち止まった。 「霧野!バッグの中を見せろ!」 「やめろ!それだけは!うわぁぁぁ!」 ぶちまけられるバッグの中身。散らばるその中に… 「俺の下着じゃないか!!」 間違いなく、俺のパンツ。 俺のパンツが霧野のバッグから出てきた。 俺の…パンツ!! 「てめぇ霧野ぉぉぉ」 「これは俺のものだああ!神童にはぜってー返さないからなああ!」 霧野はパンツを頭にかぶって逃走、 俺はそれを必死で追いかけるのであった。 …あゝ夕陽が目に染みる。 > 霧野 結局、神童は泣くんだな 神童 誰のせいだと思ってるんだ! |