「…なあ謙也」

「なんや?」

「あのさあ、私な他校の人から告白されてんか」


謙也は口元に寄せていた微糖コーヒーの缶を落とした。うわっと彼が足をのける。ひっくり返ったその缶を拾って自販機の横にあるごみ箱へ放る。ありがとうなとにこやかに言った彼は多分動揺したのかなと少しほっとした。これでもし謙也がなんの反応もなかったら多分相当落ち込んだと思う。
他校、というのは近所にある公立の中学校のことでその人とは同じ塾に通っているがまともな会話はしたことのない程度の仲で一ヶ月前に同じ塾の友達づてでメアドを聞かれて何の気無しに教えた。登録よろしくメールが来た翌日から定期的に内容の薄いメールが来ていた。大体は二、三通適当に返して何かしらの理由をつけてメールを切っていた。頻繁にメールが来る割に直接話したことがないその男子は昨日、いつものように自分の部活の話だとかどうでもいい内容のメールを送ってきたのでそろそろ寝るという理由をつけてメールを切ろうとした。すると、その2分後に来たメールの内容に酷く驚いた。『結構前から気になってて、よかったら付き合ってくれへん?』唐突なメールだった。それからしばらくそのメールを睨んだまま硬直していたが結局私は眠ったことにして返事はしていない。


「それってかっこいいん?」


それ、と謙也が指し示す人物の顔を思い浮かべて目の前の彼に目をやった。


「…なんか、ギャル男気取った感じの男。タイプではない」


むしろ謙也の方が断然かっこいいに決まってる。ああいう男が好きな人もいるやろうけど自分基準に考えたら論外。まずそのツンツン盛った頭をどうにせえやって感じ。


「じゃあ付き合う気はないんやんな」

「…うん。一応」


一応とつけたのは告白されて意識してしまい付き合うというパターンを何度か友達に聞かされていたから。自分はありえないと言い切る自信はない。なにしろ告白されたのは今回が初めてだからである。今の気持ち的に多分付き合うことは万に一つもない気がするけど


「こういう時って何て言ったらいいんやろ。あんたには興味ないんですってはっきり言うべきなん?」

「え、いや。それはちょっと傷つくやろ。なんかもうちょいオブラートに言うたり」


オブラートとか言われても告白されたの事態が初めてだからどういう断り方が最善なのか全くわからない。


「あっあれやん!私今好きな人いるから無理ですーって。そのパターンでどうや。なんやそういうのよく聞くやんっ」

「う、え…」


いや、うん。実際好きな人いるからいいけどなんかその好きな人の張本人に真正面からそんなん言われるのはちょっとなんかいい気分ではない。そういう断り方は少女漫画とかでもお約束となっているけれど、現実世界でも通用するのか。てことはもしかして謙也も告白とかされた時そう言って断ってんのかな。ていうか謙也って誰かと付き合ったこととかあんのやろか…


「おい、何固まってんねん」

「いや…何もない何もない!!」


一呼吸置いて謙也はすっと目を細める。じゃあさ、と謙也が口を開く。少し険しい顔つきだ。


「…好きな人いる、よりもっと効果的な言い回しあるわ」


え、何。と謙也を見上げた瞬間腰あたり謙也の筋肉質な腕がまわって彼の胸が顔にあたる。何が何だかわからない状態で戸惑う。え…と短い吐息のような小さな声が漏れる。肩あたりに置かれた彼の頭の重みを微かに感じる。耳元で声変わりしきったあのツンツン頭の男子とも違う低い謙也の声が囁かれた。


「俺と付き合うて彼氏いるから無理です言うたらええねん。そしたらもうそのしょーもないメールも来うへんわ」

「…それ本間?」

「本間に本気」

「それやったら付き合ってくれます?謙也くん」




笑うポラリス様提出

20110825

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