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僕の女神様

まさかこんなことになるなんて思ってもいなかった。



高校生活にもようやく慣れ、あと1週間ほどで夏休みが始まる7月の中頃。俺は近所の公園で子どもを拾った。
前々からバイト帰りにいつも夜遅い時間なのに1人公園のブランコを漕ぐ小さい男の子を気にはなっていた。
だけど気にしないようにしていたが、とうとう我慢できなくなり話し掛けると、目に見えて怯えられた。

「コワクナイヨー、コワクナイヨー」
「……」
「ほーら、美味しいアイスクリームだよー。冷たいよー」
バイト終わりに買ったアイスを見せると長いボサボサの前髪で表情は伺えないが、こちらを見上げつつゆっくりと手を伸ばしてきたので、その手にアイスを渡すと直ぐに手を引っ込められた。

パクパクと食べる姿を眺めつつ、「君の名前は?」「こんな時間に1人は危ないよ」「親はどうした?」と尋ねるが何も答えてくれなかった。
食べ終わった後もしばらく待ったが話す様子なく、俺自身バイト終わりで疲れが出始め眠くなりその場を離れると、後ろを付いてくる気配がした。
振り向くと近くにあった電柱に慌てて身を隠すが、さっきの男の子が電柱に隠れる姿をバッチリ見ていたので隠れた意味はない。
餌付けには成功していたようで、そのまま家へと帰り、家へと入る直前男の子を手招きして家へと上げた。





『海(かい)』と名乗った男の子はまだ小学1年生だと言い、母親と2人暮らしだということを知った。
母親と一緒に暮らしてはいるものの会話は一切なく、お金だけテーブルに置き家を出て行く毎日らしい。
学校でも友達が居ないという海を俺はこれでもかという程構いまくった。
学校やバイト以外は全部海と過ごし、一人っ子だったけど弟が居たらこんな感じなんだろうなぁと、最初に比べて格段に笑顔が増え明るくなっていく海に俺は愛おしくて仕方なかった。
だけど海の身なりを整えると、海の周りの環境が変化した。
元々綺麗な顔立ちをしていた海だがボサボサ髪でその顔が隠されていた。
勿体無いと思い俺が連れて行った美容院で髪型を整え、服も海に似合いそうなものを見繕うと、その次の日から直ぐに海には友達が出来た。
そのことに海は喜ぶ様子はなかったが、近所のおばさんから海が女の子からもモテてると聞き、これはきっと喜んでるだろうなとそれとなく聞くと「何が?」とキョトンとされた。





海に構ってきた毎日だが、そろそろ大学受験が近くなり、海と遊ぶ時間がなくなった。
そのこと謝ると「大丈夫。受験頑張って」と応援され、その日から受験勉強に集中した。

毎日毎日勉強を続け、その間一切海とは会わずにいた。
だから合格したことは一番に報告しようと海の喜ぶ姿を想像しながら小学校で待ち伏せしたが、海は女の子と一緒に学校から出てきた。
咄嗟に身を隠し、2人の後ろ姿を見守った。
俺が居ない間に彼女が出来てたのかと、嬉しい気持ちと寂しい気持ちが押し寄せた。
もう俺が居なくても海は1人じゃないなら喜ばしいことだと海に会わずに帰り、そのまま高校を卒業して大学は実家を離れ、一人暮らしを始めた。



大学進学後久しぶりに家へと帰ると、当たり前のように俺の部屋には海がいた。
驚いて母親に聞きにいくと俺が大学に通い始めたと同時に毎日海が来るようになったと。
「あんなカッコいい子誑かしたんだからちゃんと責任とりなさいよ?」
「誑かした?」
「あんたのこと『僕を見つけてくれた女神様』って言ってるのよ」




「夏弥(なつや)くん、おかえりなさい」


まさか高校時代に拾った子どもが白鳥に成長し、俺だけしか目に入らない子に育つなんて思ってもいなかった。








補足

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