元拍手
レジで商品を出した時、『あっ……』と心の中で声が出た。
この店員を僕は知っている。
おばちゃん店員が多い昼間の雑貨店。彼は若くそして整った顔立ちをしていたのでとても目立った。
それだけなら『若い店員さんだな』と思う程度だったが、彼は僕の中学時代の先輩だった。
別にお互い深い関わり合いはない。ただ僕が一方的に知っているだけ。
僕が中学時代、体験入部で入ったバスケ部に彼はいた。ひたすらゴールに向かってボールを打ち続ける姿がやけに印象に残っている。
周りの同級生から話を聞くと、彼は足を怪我していたらしい。
だから試合にも出れず、練習も出来ず、ただひたすらゴールに向かってボールを打ち続けていた。
程なくして、彼は中学最後の試合を前に、部活に顔を出さなくなったと誰かから話を聞いた。
ただそれだけ。僕と彼はそれだけの関係だった。
彼がどの高校に行ったのかも知らないし、そもそも2歳上の彼の名前すら僕は覚えていない。
だけど顔を見た時、『あの先輩だ……』と一瞬で中学時代の記憶が蘇った。
今でも彼はとてもカッコいい。
そんなカッコよく働き盛りの彼が、なぜおばちゃん店員に混じってここで働いているんだろう。
何も知らないのに、僕はただただ彼が気になって仕方ない。
完
補足
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