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王道×脇役

子どもの頃の夢は戦隊ヒーローのレッドだった。
誰よりも1番カッコよくて、弱い者の味方で、誰にも負けないぐらい強い。
そんな風に俺もなりたいとずっとずっと思っていた。


でも俺はレッドどころか、ヒーローにだってなれやしない。






あまり裕福とは言えない家庭で育った俺だけど、唯一勉強だけは得意だった。
勉強すればするほど先生も両親も喜び、いつも『よく頑張ってるな』『すごいぞ』とたくさん褒めてくれた。
それがとても嬉しかったし、俺が頑張って良い学校に入り、そしてのちのち大企業に就職できれば、将来両親にラクをさせてあげられる。俺はより一層勉強を頑張った。
その甲斐あって中学受験の結果、特待生として大学付属の全寮制の学校に合格した。
もちろん学校の先生も両親も大喜びしてくれたし、褒めてもらえた。誰かのためになることがとてもとても嬉しく、これからも誰かを喜ばせたいとそう思った。
この学校で色んなことを学び、将来は両親だけでなく、たくさんの人のためになることをしたい。
昔から夢を見るヒーローのように、カッコよくて、弱い者の味方で、誰にも負けないぐらい強くなろうとそう心に決めていた。


だけどそんな気持ちは学校を過ごすうちに少しずつ変わっていった。
この学校は変な学校だった。お金持ちばかり集まっているせいか物の感覚がおかしく、学生には勿体無さすぎる程の高級な食べ物やインテリアが揃う食堂。広過ぎる寮部屋。先生よりも生徒の方が偉く、見た目によってランクもつけられている。
どう考えてもおかしい。なんて変な学校なんだ。だけどおかしいと言う人は誰も居なかった。
この学校に入りできた友人に『ここは変だ』と伝えたが、『他と比べたら変かもしれないけどここではこれが普通だよ』と返された。
顔が良ければ優遇され、お金があればなんでも許される。弱者は何があっても声を上げられない。

初めて自分の無力さを感じた。この学校は変だとわかっているが、俺には何もできない。顔だって普通だし、家だって裕福ではないし、今まで褒められてきた勉強だってこの学校では真ん中ぐらいだった。俺に抗えるようなチカラは1つもない。
いじめを見付けても、いじめてる奴が金持ちだと親を使って社会的に潰しにくるから、いじめられてる子を助けることすらできない。助けることで俺まで目を付けられてしまうから。それが怖くて俺は見て見ぬ振りすることしかできない。
世の中には抗えないことが多い。自分の力はとてもとても無力だ。
最初は変だと思っていたことも数ヶ月も経てば慣れ、数年経てば当たり前になった。波風を立てず、そつなく生きることが良い生き方だとそう思った。目を付けられるようなことをする方が悪いとすら思っていた。





でもヒーローは、レッドは、そんなこと全部関係ない。
おかしければおかしいと声を大にして言い、この学校の普通を変えていった。
紛れもなく夏木(なつき)くんはヒーローだ。しかも彼は戦隊ヒーローの中で真ん中に立つレッドだった。

高校2年の5月という時期外れに転入してきた夏木くんはこの学校を変えた。見た目で選ばれただけの機能してなかった生徒会を動かし、いじめを見付ければ直ぐに止めにいった。
そんな彼にずっと隣で「やめなよ」「周りが黙ってないよ」と怖くて見てることしかできなかった俺にも、「大丈夫だよ。俺が全部変えるから。それに、もし何かあれば俺が守るから」とそう言ってくれた。
カッコよくて、いつでも弱い者の味方でいてくれて、とても強い。
ヒーローだ。俺が憧れていたヒーローがいる。






「夏木くんは戦隊ヒーローのレッドだよ」
「じゃあ基(はじめ)はヒロインな。何かあれば俺が助けに行くよ」
「本当カッコいいなぁ……好きだよ」
「知ってる」








補足

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