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来世でも夫婦でありたい

「なんであんな男選んじゃったのかねぇ……」
「次は絶対いい男捕まえるんだから」
「来世に期待ね」
常に近所の井戸端会議の議題は夫への愚痴だ。
『家にいても何もしてくれない』『やったらやりっぱなし』『何度言っても聞きやしない』と溜まりに溜まった妻達の不平不満に話は盛り上がり、周りも「うちのところもそうよ!!本当何もしないんだから」とヒートアップしていく。同調に熱が入る一方、自分は肯定も否定もせず「そうなんですねー」と適当に相槌を打った。

「河合(かわい)さんのところのご主人はどうなの?」
「うちですか?うちはー……、まぁまぁですかね」
「いいわねー!それが1番よ」
「まぁまぁぐらいがちょうどいいわよね」
そうですねと笑い、そこで自分の話を終わらせ、またそれぞれの夫への愚痴へと戻ったが、内心嘘ついてしまったことを申し訳なく思う。
本当は『まぁまぁ』なんて嘘だ。
周りが愚痴を言う中、ベタ褒めするのも気が引けたので『まぁまぁ』と言ったが、うちの旦那さんは世界一素敵だし、世界一大好きな自慢の旦那さんだ。だけどそれは自分さえわかっていればいい。

『来世でも夫婦でありたい』
あなたに出会ってから、ずっとずっとそう思い続けている。













朝のワイドショーは芸能人の離婚話で持ちきりだ。僕は朝食を食べながら複雑な心境でテレビを見つめた。
「隆二(りゅうじ)さん離婚しちゃったんだ……」

『来世でも夫婦でありたい』と強く願ったからか、生まれ変わった時、僕には前世の記憶があった。
前世の旦那さんである河合隆二さんはそれはもうとても素敵な人だった。顔が良く、性格も良く、常に妻である僕を気遣ってくれるとても優しい人だった。出会ったキッカケはなかなか結婚しない僕に痺れを切らして親が決めてきたお見合いだったが、初めて会った時から隆二さんはとても素敵で、直ぐに僕は隆二さんを好きになってしまった。
僕にはもったいない人で、結婚を断られるかと思っていたが、隆二さんとの話はトントン拍子で進み、気付けば結婚していた。
一緒に暮らしてみるとさらに隆二さんの良さを知り、どんどん好きなところが増えていった。
日々『ああ好きだな』『幸せだな』『出来ることなら来世でも夫婦になりたい』とずっと思い続けていた。
その結果が今世なのかもしれない。
僕が隆二さんを好きすぎるが故に、前世の記憶を持ち、尚且つ前世の旦那さんである隆二さんにも早いうちから出会ってしまった。
そのことに喜ぶべきなのだろうが、前世では女性だった僕は男として生まれ変わり、隆二さんの方も、今世でも男として生まれ変わっていた。同性ということもあり、僕は隆二さんに会うに会えなかった。

本当は隆二さんを見つけた小学6年の頃から声をかけたかった。
幼稚園や保育園から進級し、小学校へと上がってきた子達がズラリと並んで歩く姿を見つめる中、その中で一際目立つ姿に目を引いた。
『あっ、隆二さんだ』と一瞬で僕はわかった。まだ幼く、完成されていない顔立ちなのに、前世同様イケメンな隆二さんにまた僕は惚れてしまった。だけど色々考えた末、接触しないよう心に決めた。

あれから24年。過ぎていった日々はあっという間だった。運命ってあるらしく、その後も隆二さんは中学高校大学と僕と同じ学校へと行き、専攻も同じだった。だけど5歳という年の差のおかげで、小学校時代以外被ることはなかった。
それに大学在学中に隆二さんは芸能界にスカウトされ、それ以降僕が一方的にテレビや雑誌などで隆二さんの姿を見るだけになった。

多分僕は生まれ変わってからずっと怖かった。
前世から僕は隆二さんと夫婦でありたいと思い続けていたが、隆二さんはどう思っていたのかわからないことに、生まれ変わってから気付いた。
僕だけがずっとそう思い続けていたのなら、今世では隆二さんには楽しく自由に生きて欲しい。
だから運命を捻じ曲げてでも、僕は隆二さんから逃げた。隆二さんの未来を潰したくなかった。
そのおかげもあって、隆二さんは20代前半で美人だと有名な女優と結婚し、直ぐに子どもにも恵まれた。
『ああよかった。隆二さんが幸せならそれでいい』とホッとした。
だけどいつからか隆二さんと奥さんの仲が悪いという噂が流れるようになり、ネットの噂だからと気にしないようにしていたが、とうとう隆二さんは離婚し、今朝のワイドショーで離婚報道が流れた。



職場に休みの連絡を入れ、今日は会社を休ませてもらうことにした。
この24年間。抑えに抑え続けていた感情がワイドショーを見たことで爆発してしまった。

隆二さんに会いたい。隆二さんと過ごしたい。隆二さんとまた夫婦になりたい。

隆二さんに相手がいる以上、もう叶うことができない夢だと思っていたのに、隆二さんが離婚したことで、もう抑えが効かなくなってしまった。

「隆二さんに会いたい……」
言葉にしたらもうダメだった。もう想いが止まらない。
もし運命があるとするなら、今顔を上げた先に隆二さんがいてほしい。
ゆっくり、ゆっくりと顔を上げるが先にあるのは誰もいない砂場だった。
諦めて帰ろうと立ち上がった。








「やっと見つけた」





補足

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