中学の卒業式の日、神山(かみやま)に告白をされた。
神山はイケメンでスポーツもできて性格も良くて、とにかく女子にモテモテな奴だった。
だから卒業式の日に神山が女子達に告白されるのはわかるが、まさか神山が男の俺に告白してくるとは思ってもいなくて、驚いて言葉が出なかった。

ようやく神山からの告白に俺が絞り出した言葉は「気持ちは嬉しいよ？嬉しいけどだって俺ら男同士だし……」だった。
神山は落ち込むでも喜ぶでもなく、「嬉しいと思ってくれたのならよかった。まだ良い返事をもらえないとしても、良い返事もらえるまで諦めないから。これからよろしく」とそう言ってきた。

高校に入学すると神山は常に俺の隣にいた。
だからといって好き好き猛アピールしてくることはなく、普通の友達同士という感じで楽しかった。
中学時代の俺達は特別仲良い訳ではなく、ただのクラスメートという関係だったので、高校に入ってから初めて深く神山のことを知り、『神山のこと良い奴だとは思ってたけど本当に良い奴だし、一緒にいると楽しいな』と思うようになった。
ただ神山は俺に好きだとアピールしてくることはなかったが、女子からの告白を全部断ったり、何をするにでも俺を優先してくれるなど、行動が俺のことを好きだと物語っていた。
だから女子が神山に告白するたび、『神山は俺のことが好きだから、残念ながらその告白は実らないよ』と性格が悪いが、女子達に優越感を感じていた。

神山が隣に居てくれるのはすごく心地良い。今、神山のことが好きかと聞かれたら迷わず俺は頷く。ただそれが恋愛という意味での好きかという問いには頷けない。
男同士という壁は厚く大きく高い。その壁を俺は簡単には飛び越えられない。
だからと言って断って神山に離れて行かれるのも嫌だ。
もしも今神山に告白をされた時、俺はなんて返事をすればいいのかわからない。なのでなるべくそのことは考えないようにしている。
ありがたいことに、神山は中学の卒業式以降俺に告白してくることはなかったし、告白はしてこないものの、神山の行動から今も俺のことが好きだということは日々感じている。
関係をハッキリさせようと迫られることはなく、心地良いぬるま湯のような関係に、俺は完全に浸りきっていた。








大学に入ってから、俺と神山はルームシェアを始めた。
最初は『もしかしたら俺ってば、神山に襲われる？』『さすがにやべぇかも……』と思っていたが、そんなことは起こらず、のんびりゆったり一緒に暮らしている。
むしろ神山によって俺は甘やかされた穏やかな生活を送っている。
実家に居た頃は『掃除しろ』『いつまで寝てるんだ』『手伝え』とうるさく親に言われ続けていたが、神山はそんなこと言わない。
掃除洗濯料理という家事は全て神山が完璧にこなし、神山ばっかやらせちゃってることが申し訳なく手伝おうとすると「家にいる時ぐらいのんびりしてなよ」と言ってくれる。
そのお言葉に甘え、基本的に俺は家ではのんべんだらりと過ごしている。
平日は大学やバイトがあるからありがたいが、休日でも同じく「休日なんだからのんびりしてなよ」と言ってくれるので、１日中寝てる日もあれば、暇だから神山と2人で遊びに行く日もある。
何不自由無い、充実した素晴らしい生活。







『いい加減にしろ』
夢の中で何人もの人に怒られた。俺に怒っている人々は知ってる顔もあれば知らない顔もある。
みんなが何に対して怒ってるかなんて、俺は考えなくたってもうわかりきっている。

起きてすぐリビングへ行くと、朝食の準備をしていた神山が「おはよー」と声をかけてきた。
それに俺は返事はせず、無言でソファーに座った。
ああもう認めよう。俺はもう神山が好きだし、神山無しで生きていけない。
男同士なんて厚く大きく高い壁はとうにどうでもよくなってしまった。
神山が好きだから、神山にはこの先もずっとずっと一緒に居てほしい。隣に居てほしい。

「神山、俺のこと好き？」
こんなこと神山に聞くの、多分初めてだ。
いつも関係をハッキリさせるのが怖くて、ずっとずっと俺はこの質問を避けてきた。

「何、急に？大好きだよ？」
知ってる。やっぱり神山は俺のことが大好きなんだよ。あれからもう6年以上経ってるのに、それでも俺をずっと好きで居続けてくれている。

「もう俺に告白してくれないの？」
「もう告白してもいいの？」
振り向いて朝食を作る神山を見ると、おかしそうに笑っていた。


「とりあえず言ってみれば？」
なんだか少し恥ずかしくなってきて、ソファーの背に少し顔を埋めながら俺は神山を見つめた。

「ずっとずっと好きでした。俺と付き合ってください」
「ありがとう、嬉しい。俺も好き」




完


補足

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