短編 | ナノ

人気者×平凡

世の中にはこんな完璧な人間が本当に存在するんだなと、大翔(ひろと)くんと会ってそう思った。
カッコよくて運動も勉強も出来て、それだけでもすごいのに明るい性格で友達は多く、学校で1番可愛いと言われている子を大翔くんは彼女に持っていた。
まるで漫画やテレビから出て来たような人物な大翔くんに、捻くれ者な俺は『どうせ外面だけが良くて、中身は最悪なんだろうな』と平凡で何も取り柄がない自分とは違いみんなから人気があるリア充な大翔くんを一方的に目の敵にしていた。

見るとイライラするからなるべく大翔くんのことを見ないようにと思うが、どんな場面でも中心にいるのはいつも大翔くんで、気にしないようにしているのに必ず目に入ってしまう。
そして何の因果か夏休みを終えてすぐの席替えで、俺の席は大翔くんの後ろになってしまった。
これじゃあどうやっても目に入るじゃないかと大翔くんの後ろ姿をジッと見つめてみたが、後ろ姿までカッコよく、どうやっても自分はこんなにカッコよくなれないなと敗北を認めた。
最初から何か大翔くんと勝負をしていたわけじゃないが、完全な敗北に今までの捻くれ者な俺が急に鳴りを潜めた。
けれど今度は全く俺は大翔くんに意識されてないんだろうなと胸が苦しくなった。
真後ろの席になったというのに、未だ俺は大翔くんと会話どころか目が合ったことすらない。
そもそも俺達は友達でもなんでもない、ただのクラスメイトでプリントを後ろに配るという事務的な作業でさえ大翔くんは身体や顔をこちらに向けることはせず、ただプリントを俺の席に置くだけで何もなかった。
何もなくて当たり前だと自分には言い聞かせているのに、もしかしたら何かあるんじゃないかと無意識に期待してしまう。
席なんてほんの1〜2ヶ月で変わってしまい、席が前後になったとしても平凡な俺が人気者な大翔くんとでは友達にすらなれやしないのに変に期待ばかりしてしまった。
そろそろ次の席替えだろうし、馬鹿な期待はやめようと担任に前に渡せと言われたプリントを大翔くんの右肩辺りに持っていくと勢いよくプリントを引っ張られた。
『あっ』と思ったと同時に無意識に「痛っ」と言葉を発してしまった。

プリントを離すタイミングが遅くなってしまい、プリントで指が少し切れてしまった。
地味に痛いんだよなと前を向くと、いつもの後ろ姿じゃなく、こちらを向いた大翔くんと目が合った。

「えっ?あっ、、、」
「悪い、指切れた?これ、よかったら使って……ごめんな、これから気をつけるから」
そう言って再び前を向いてしまい、後ろ姿しか見えなくなってしまったが、同じクラスになってから初めてかもしれない……大翔くんと目が合い、会話までしてしまった。
これは本当に現実かと惚けた状態で、大翔くんが俺の机に置いていったものを見ると、それはピンク色のファンシーなキャラクター物の絆創膏だった。
こんな可愛い絆創膏をあのカッコいい大翔くんが常備してるなんて、そのギャップにキュンとしてしまい、さらにこんな俺に気遣って絆創膏をくれる優しさに胸が高鳴って仕方ない。
大翔くんを好きになってしまうのは一瞬だった。



もしかしたらあの時のことがキッカケで仲良くなれるかもと大翔くんから貰った絆創膏を見てニヤニヤする毎日。
大翔くんの後ろ姿を見ながらこっち向かないかなぁ、向いてくれぇと授業そっちのけで念ばかりおくったが努力虚しく、何も無いまま席替えをしてしまい、俺は大翔くんと席が離れた。
遠くなった席から大翔くんを見つめるが、今まで間近な距離にいたのに目が合わなかったのに、遠くなった今、目が合うわけがなくただ見つめる毎日が続く。
なんかのキッカケでまた大翔くんと喋れないかなと日々思うが、相変わらず何もなく、気が付けば春休みになってしまい、そして始業式を迎え1学年上がったが大翔くんとは違うクラスになってしまった。
さらに大翔くんとは遠くなってしまった。
だけど想いは膨らむ一方で、少しでも大翔くんを見たくて意味もなく大翔くんのクラス前の廊下を歩いたり、自分は自転車通学なのに大翔くんを追いかけて電車に乗り込んでみたり、キッカケになればと前に大翔くんがくれたファンシーな絆創膏を買い、それを持ち歩いている。
だけど清々しいほど何もなかった。
何かキッカケを作りたいなら大翔くんに話しかければいいとわかってはいるが、そんな勇気俺にはなく、いつも神頼みばかりしてしまう。





3年に上がってもまた大翔くんとは違うクラスになり、気付けばあと1ヶ月で卒業という今でさえ想いとは裏腹に何もできていない。
明日からは自由登校になってしまい、実質今日が卒業前の最後の授業日。
数日前から無駄に早く登校したり、放課後教室に1人残ってみたり、何かいつもと違うことすることで大翔くんと話せたりしないかと何も確証がないのに行ってきたがやっぱり何もなかった。
大翔くんを好きになってからの今まで俺は何をしてきたか考えるが、どれもこれも他力本願で想いばかり強いくせに実際は何もできていない。
最後だけは死ぬ気で勇気を出せと自分を奮い立たせ、2月14日である今日俺は初めて大翔くんの前に立った。

「えっと……誰?」
大翔くんが1人になったチャンスを見計らい駆け寄ると不思議そうな顔をされた。
そして発された言葉に俺の目の前が真っ暗になった。
そりゃそうだよな俺が一方的に大翔くんを見てきただけで、大翔くんは俺のことなんて覚えてもないよなと早速挫けて逃げたくなる。

「……あっ、ごめん待って、確か1年の時同じクラスだった羽山(はやま)だよな」
「っ!そう」
やばい……大翔くんが覚えててくれた。それだけでさっきまで落ち込んでいた気持ちが一気に上がった。
大きく息を吸って、ゆっくり吐き、一歩大翔くんへと近付いた。

「これ、受け取ってください」
何か言われる前に用意していたチョコを大翔くんに渡し、そそくさとその場を去った。
手作りは重いだろうと思い、その辺で買った市販のチョコだが、男から渡されて気持ち悪いと思われていないか渡した今はそれが心配で仕方ない。
だけどそれと同時に渡せた満足感も湧き上がってきた。
告白することも、手紙で想いを伝えることも、勇気のない俺には出来なかったが、精一杯のなけなしの勇気を振り絞ってチョコを渡すことができた。もうそれだけで十分だ。


願うばかりで何も行動を起こせなかった2年半の片想いに、やっと終止符をつけられそうだ。









補足

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