短編 | ナノ

息子×父親

どうしてこんなことになったんだったっけ?

ただ息子のためにガムシャラに頑張ってきた16年。
そんなちょうど16年目を迎える今日、俺は実の息子の喬(きょう)に告白をされた。
しかもその告白というのも『オヤジを見てるとムラムラする。一回でいいからヤらせてくれ』という何とも下品なもので、フォークに刺していたケーキが皿へと落ちた。
何を言ってるのか理解出来ず、俺が驚いて惚けてる間にいつの間にか喬によって俺は押し倒された。



そうだ。ただ俺は喬の誕生日を祝っていただけなのに何故こんなことになったのか……
とりあえず現実逃避をするのはこれぐらいにして、徐々に近付いてくる喬の顔を手で押さえ遠ざけさせた。

「ちっ、あと少しだったのに……」
「あと少しとかそういう問題じゃないだろ。お前、なんで……」
「あ?だからオヤジ見てるとムラムラすんだよ。昔っから風呂上がりに上半身裸で出てくっし、そんな無防備な姿ばっかしてるから俺がどんだけ我慢してきたかわかってんだろうな。今まで襲わなかっただけありがたいと思え!」
ムラムラ?無防備?男が男に言うワードではなく、さらに頭がこんがらがる。

「待て、待つんだ。一回整理させてくれ……ムラムラっていうのはその「ああ。オヤジとセックスしたいってこと」っ、!!喬は俺のこと好きなのか?」
「……ああ」
俺の問いかけに突然喬は苦しそうな顔をした。
その顔はどこか痛々しく、見てるこっちまで胸を締め付けられた。

「いつからか聞いても?」
「物心付いた時からずっと……」
そんな前から!?
驚いてジッと喬を見るとバツが悪そうに顔を背けられた。
喬の母であり、俺の妻だった花苗(かなえ)は喬が1歳を過ぎた頃持病が悪化し、まだ若かったのにこの世を去った。
それから俺は花苗に代わって喬を男手一つで大事に大事に育ててきた。
その結果小学生までは『パパ大好き』と言ってくれていたが、中学に上がった頃から俺を避けるようになり、呼び方も『パパ』から『オヤジ』へと変わってしまった。
突然やってきた息子の反抗期に俺は毎日のように枕を濡らしていたが、それでもやっぱり喬は俺の可愛い可愛い息子に違いなく、どんなに避けられていようがウザいほど喬を構い続けた。
だからまさか喬が物心付いた時から俺のことを好きだったなんて……
ってことは俺のこと好きなのに避けてたってことか!なんか腹が立ってきた。

「じゃあなんでパパの事好きなのに避けてたんだよ!」
「自分のことパパとか言うな。あざとい、襲うぞ。……まぁ好きだから、避けてたんだろうが……実の親子で、こんなのおかしいってわかってっから離れようとしたのに、しつこくオヤジが付き纏いやがるから結局俺は諦められなかったんだろうが」
そうだったのか。喬はずっと俺のことを……
おかしいことだってわかっていながらも諦められなくて、喬は1人このことについて悩んで生きてきたのか思うと、父親なのに今まで喬の気持ちに全然気付けていなかった自分のことが嫌になる。


「こんな実の父親に欲情してたのが息子だったなんて幻滅したろ?わかったらもう俺に関わんな」
相変わらず喬はカッコいい。
俺に似た男前の顔立ちで、近所でも『喬くんは歳を取るにつれてどんどんカッコよくなってくわぁ』と言われ俺はいつも鼻が高い思いをしてる。
だけど喬のカッコ良さは見た目もそうだが、一番は中身だと思う。
本当に喬は優しくて、だから父親である俺の方がいつも喬に甘えてしまうんだろうな。

今の言葉があえて俺を遠ざけようとして言ったことなんてわかりきっている。
そしてそれが喬の気持ちを受け止めなくてもいいように俺へと逃げ道を作ってくれてることもわかっている。
それがわかっているからこそ、こんな状況なのに俺はさらに喬を愛おしく思い、離れがたくなってしまう。

「喬はそんなこと言って俺が本気で離れていくと思ってんのか?むしろそんなこと言われたら離れられなくなるに決まってんだろうが。……まだ直ぐには答えを出せないが、ちゃんとお前の気持ちに向き合っていく。今はそれで許してほしい。そんで俺も、喬の好きとは違うかもしれないが、心の底から喬のことが大好きなんだ。これからもずっと一緒に居たいと思っている」
今はまだこんなことしか言えないが、どうか俺の気持ちが喬に伝わっているよう願うしかない。

俺はきっと、喬が居なかったら花苗が死んだ時点でダメになってたかもしれない。
だけど辛い時も嬉しい時も、悲しい時も楽しい時も喬が居てくれたから俺はめげずに頑張ってこれた。
その頑張ったおかげで喬がこんなにも人の気持ちを考えられる優しい人間に育ったことを本当に誇りに思う。

「……俺はちゃんと忠告したからな?」
「ああわかってる。ありがとう、優しい子に育ってくれて俺は嬉しいよ」
「なんのことだか」







補足

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