短編 | ナノ

地味秀才(隠れイケメン)×三男サラリーマン

優秀な兄達に比べて僕はただの凡人だった。
数代に渡り会社を経営する名の知れた家系に三男坊として生まれた僕は、両親の意向で優秀な兄達と同じく勉強や習い事をさせられてきた。
だけど兄達と僕とでは頭の作りが違うようで、彼等が1度で覚えられることを僕は5回かけてやっと覚えられるぐらいだった。
そんな僕に両親は早々に諦めた。
そしてただ一言『恥をかかせるな』とだけ言ってきた。

『優秀な兄達や両親に恥をかかせてはいけない』
その言葉が僕の原動力になった。
ギリギリ僕でも必死に頑張れば行ける高校や大学を目指し、「すごい」とは言われないが、入れれば妥当と思われるところに何とか合格できた。
もちろん両親から褒められることはなかったが、怒られることもなかった。

大学卒業後は、僕でも家族や会社のために何か役に立てられたらと会社に入らせてもらった。
一応こんな僕だが社長子息の1人で、平社員だと格好がつかないため、入社してから1年足らずで役職に付けてもらった。
当たり前だが、優秀な兄達とは違いただの凡人な僕を周りは腫れ物のように扱い、裏では僕について色々言っているのを何度か聞いたことがある。
『親の七光り』『出来損ない』『いらない子』
全部その通りだと思う。だから何も言い返すことができない。
僕みたいな何もできない奴の下に働く人達は本当に可哀想だなと自分でも思う。
だけどそういう家に生まれてしまったものは仕方ない。僕だってどうにもできない。



「ふぅ……」
会社は疲れる。
少しでも家族の役に立てられたらと入ったがずっとみんなに見られ、その上少しでも僕が変なことをすればその場には居ない父親や兄達にも自分の行動が耳に入ってしまうかもしれないと気が抜けない。
だけど最近は少しずつこんなに頑張らなくてもいいのかもなとも思うようになってきた。
最初から両親に期待されてなかったし、兄達もこんな僕が何しようと知ったこっちゃないだろう……
そう思うと一気に楽になった。
それに孝太郎(こうたろう)くんと出会ったことも大きい。




その日は大きなプロジェクトが上手くいき、苦労してやって来たことがやっと終わったことで完全に僕は燃え尽きていた。
このまま仕事場に居ても何も出来る気がせず、息抜きも兼ねて会社近くの公園へと休みにいった。
ブランコと砂場とベンチしかない質素な公園だが休むには十分で、疲れた時は大抵ここへ来る。
その日は先客が来ており、いつも僕が休んでいるベンチにはここら一帯で一番頭が良い私立高校の制服を着た男子高校生が俯いて座っていた。
いつもの僕ならそのまま踵を返していたが、その日は公園の隣にある自販機で缶ジュースを買い、それを持って彼の元へと向かった。

「君もサボり?僕もなんだ……あっ、これあげる」
「え?あの……ありがとうございます」
突然話しかけられて驚いて顔を上げた彼は差し出された缶ジュースを取る様子がなく、『受け取って』と顎をしゃくるとようやく受け取りお礼を行った。
長い前髪で表情はわからないが、少しだけ口元が緩んだような気がする。
空いてたベンチに座り、彼がジュースに口を付けるのを見守った。

「今日はもう仕事できる気がしなくてサボりに来たんだ」
「……?仕事で何か失敗でもしたんですか?」
「んーん、逆。大きな仕事を成功させて、緊張が解けて腑抜けちゃった」
よかったですね。おめでとうございます。と褒めてくれる彼に自然と僕は笑顔になった。

「ありがとう。褒めてもらうのなんて久しぶりだな……」
「そうなんですか?大人になると褒めてもらえなくなるんですね。……あーでも、俺も最近褒めてもらった覚えないです。良い点取るのが当たり前だって勉強ばかりさせられて、高校だって親に勝手に決められました……」
彼は僕と似ているようで似ていない。
きっと彼は家族から期待されている人間だ。
シワひとつない制服にパリパリのYシャツ。見ただけで彼が家族から愛されているのがわかる。
その上親に勝手に決められた高校だとしても、ここら一帯で一番頭が良い私立高校に入れる程の実力がある彼を家族が期待してないわけがない。


「高校は楽しい?」
「わからないです。勉強だけしかしてこなかったので」
「友達は?」
「……クラスメイトとは話したことはないです」
今日会ったばかりなのに彼は素直に僕からの質問に答えてくれた。

「自慢じゃないけど僕も勉強ばっかしてきたから高校時代友達は1人も出来なかったよ。今思うとね、もう少し遊んでおけばよかったなって思う。だから君は遊びなね」
「……無理ですよ」
「無理じゃない。僕は君ならできると思うよ。僕はね、家族に期待して欲しくて勉強ばっかしてたからサボる勇気はなかったけど、君は僕と違ってサボれる勇気を持ってるし期待もされてる」
彼に説教じみたことを言ってしまったなと、少し笑えてしまった。
こんなことを人に言うのは初めてだった。
公園でサボる彼が、何となく昔の自分と重なった。
褒めてくれないと頭ではわかっているが、もしかしたら褒めてくれるかもしれないとただただ頑張り続けた学生時代。
少しでもサボったりして成績を落とせば、もっと家族に見離されるかもしれないと怯えていた。
あの日々が無駄だったとは思わないが、もう少し力を抜いてもよかったかもなと今では思う。
だから僕よりも勇気があり、期待されている彼にはもっと学生時代を楽しんでほしいとそう思った。

「そろそろ戻らないとだから行くわ。こんな話聞いてくれてありがとう」
「こちらこそ!ありがとうございます。あの、名前教えてください」
「久(ひさし)」
「久さん、俺は孝太郎です」
「孝太郎くんね。また」






「あれ?また久さん、サボってるんですか?」
「孝太郎くんこそ、友達も増えて今じゃリア充になったんだからもっと遊びに行けば良いのに」
孝太郎くんとの最初の出会いを思い出していると、ちょうど本人がやってきた。
あれから何度も孝太郎くんとは公園で待ち合わせもしていないのに顔を合わせていた。
話してる中で前髪が気になり切らないのかと尋ねると、その次の日にバッサリと孝太郎くんは髪を切ってきた。
そしてバッサリと髪を切った孝太郎くんが思いの外イケメンで驚いてる僕に「久さんに言われて切ってきました。俺、久さんが好きなんです」と告白をしてきた。
今じゃ孝太郎くんは見違える程のリア充へと生まれ変わり、友達も増え、家族とも仲良くしているというのにこうしてたまに学校をサボってこの公園へとやってくる。







補足

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