短編 | ナノ

ワンコ×人嫌い

「先輩!おはようございます」
「あーうん、おはよう」
「……何見てるんですか?」
スマホで繁華街の美味しいお店を探していると、ひょいと画面を七原(ななはら)に見られた。

「あー、そこのお店美味しいですよね。店長と俺仲良いんでよく行くんです」
「……へー、そうなんだ。すごいね」
また出た。七原の知り合い……
七原は持ち前の愛嬌の良さに色んな人から愛され可愛がられている。
年下から年上まで幅広く知り合いがおり、人嫌いな俺とはまったく逆の性格をしていると言っても過言ではない。

「その……よかったら一緒にそのお店行きませんか?オススメとか……!?」
「いや別に行きたいってほどではないから」
評価も良いし此処へ行ってみようかなと傾きかけていた心は、七原の言葉を聞いて一気に冷めた。
きっとその店に行ったとしても、七原の知り合いがいる以上、その知り合いに話し掛けられたり、七原がその人と話し込む可能性がある。
そんな俺にとって知りもしない人に声を掛けられるのも、一緒に来た俺を取り残して話し込まれるのも嫌だ。

「そうですか……」
「何何?朝田(あさだ)にまた振られたのナナちゃん」
「美味しいなら私行ってみたーい。ナナくん私と行こうよー!」
さっきまで誰1人周りには居なかったはずなのに、七原が俺のところへ来た瞬間、続々と周りに人がやってきた。
そのせいで無意識に俺の眉間にシワがよった。

たいして親しくも無いのに七原のことを『ナナちゃん』と呼び、さも仲良い風に見せたり、七原とデート出来るかもしれないチャンスを逃してたまるかとガツガツと行ったり、七原に気に入られようと俺と七原が話していたのに無理矢理会話に入ってくる奴等に不快感を覚える。
一緒に行動するような友達でも何でもないのになんでこうも図々しく居られるんだろうな

そう俺は思うが、七原はそうではないようで、話し掛けて来た奴等に「ただちょっと先輩の好みの場所とは違うだけで、振られたわけじゃないですぅ!」「味も美味しいけど、イケメン店員もいて、俺と行くよりも女の子同士で行く方が断然面白いよ」と1人1人笑顔で答えている。
よく七原は誰とでも仲良くなんて出来るよな。
俺には絶対できないことだ。
そもそもしたいとも思わないがな。


せっかく静かに授業が聞ける良い場所だったのに、七原の登場で席周りが混雑し始めたので、席を立った。
直ぐに『先輩!』と七原に声を掛けられたが、後ろを振り向いたところで何もならないので、聞こえない振りをして、誰も周りには居ない端っこの席へと俺は移動した。







さっきまでうるさかった教室は、授業が始まったことでやっと静かになった。
だけど前方で自称友達に捕まって授業を受ける七原がチラチラと何度も後ろを向いてはこちらを見てくる。
だけど絶対に目が合わないように黒板とノートへと意識を集中させた。


七原は何故だかわからないが俺のことを好いている。
そして数ヶ月前に七原に俺は告白をされた。
元々顔が良く、その上明るく誰にでも優しい人懐っこい性格の七原は昔からみんなから可愛がられており、いつも輪の中心でニコニコと笑っていた。
そんな七原に好かれてるなんて素直に嬉しかったが、どうも博愛主義者な七原とは合う気がしなかった。

案の定合わないところがいくつもあったが、俺を特別扱いしてくれる姿や一生懸命な姿に人間嫌いな俺でも多少心が動き、おためしで付き合うぐらいならとOKを出した。
だけどいざ2人で何処かへ出かけても、その場所場所で七原の知り合いに会ってしまう。
七原の長所なんだろうが、人付き合いもいいから知り合いに会い、話し掛けられるたび七原はその人と軽く話し込んでしまう。
そのせいでデート中なのに、何度も俺は1人ポツンとした。
別に七原の知り合いと話すこともないし話し掛けられたくないから1人ポツンとしてる方が楽だけど、せっかくのデート中なのに……と思う気持ちもある。
だから最初は付き合いはじめたということもありたびたび一緒に出掛けていたが、最近ではもう七原と一緒に出掛けなくなった。
やっぱり友達の多い七原の気持ちはわからないし、性格もそれほど合っていないと思う。

少し七原との付き合いが億劫になってきた。




授業が終わり、机の上の物を片付けていると、いつの間にか七原が目の前に来ていた。
「先輩!やっぱりさっきの店、是非一緒に行きましょう。俺奢りますから!」
「いや、お金がなくて断ったわけじゃないから……」
何としてでも一緒に行きたいのか如何に美味しいかを七原が語っているが、それを右から左へと流し、『あーごめん、もう帰るから』とさっさと荷物を片付けて教室から出ていった。
それと同時にまた七原に話し掛ける声が聞こえてきた。






補足

prev / next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -