昼ごはんが終わり、さっきまで食べてた焼きそばパンの袋を捨てて席に戻ると正志(まさし)があっ!と声をあげた。
「よっちんさぁ、最近疲れてるみたいだからこれあげる。手出して」
「何?」
確かに最近眠れないことが多くなり、いつもボーッとしてばかりいた。
言われた通り正志の方へと手を出すと、ポケットから白い錠剤2粒が入った透明な袋を渡された。
「サプリメント。気休めだけど飲まないよりはいいと思うよ……」
「おー、ありがとうな」
袋から取り出し、サプリメントをお茶で流し込んだと同時にサッと正志によって目隠しをされた。
「おい、なんだよ突然?」
「っていうのは嘘で、実は今よっちんに飲んでもらった薬は面白半分でネットで買った惚れ薬でーす」
「は?」
惚れ薬?何言ってんだ?
目を覆ってる手を剥がそうと正志の手を掴むと「ダメダメ、飲んだあと最初に見た人を好きになるんだから」とさっきより強く目を覆われた。
そして目を覆ったまま正志が動き、俺の後ろへと回っていくのがわかった。
「よっちんいーい?最初に見た人をよっちんは好きになるから」
耳元で正志がそう囁き、パッと目を覆っていた手を外した。
訳がわからないままゆっくり目を開けるが、強く目を覆われていたせいで目の前がぼやけて前が見えない。
だけど直ぐに焦点が合い、いつの間にか戻って来ていた前の席の主である加藤(かとう)とバッチリ目があった。
「ん?」
パックジュースを飲み、不思議そうな顔でこちらを見つめる加藤に何テンポか遅れてドクンと俺の心臓が大きく脈打った。
鼻の先が丸い以外特徴のない顔。黒く少し野暮ったい髪。乱れのないキッチリと着た制服。
そんな平凡男に何故か俺の心臓は高鳴っていくばかり。
ジッと無言で見ていたせいで痺れを切らし、「どうした?」と加藤が聞いてくるが、その少し心配したような顔に思わず俺は叫びそうになった。
なんでだ?なんでだ?なんでだ!
なんでこんなに加藤が可愛く見えるんだ
こんなに加藤は可愛かったか?いや、男に可愛いは変だろ
心臓は始終高鳴り、頭の中はグチャグチャになる。
正常な考えが何一つ浮かんでこない。
「よっちん、どお?効果はあった?」
忘れかけていた正志の声に勢いよく後ろを振りかえった。
そうだ俺は正志に惚れ薬を飲まされたから今こんなことになってるんだ。
薬の効果じゃなければ加藤が可愛く見えるなんておかしい話じゃないか
納得がいき、やっと落ち着いてきた。
直ぐさま机から立ち上がり、正志を引っ張って屋上へと向かった。
「よっちん?」
「なんだあの薬……平凡な加藤が可愛く見えたぞ」
なんであんなもの飲ませたのか聞くよりも、惚れ薬なんてものが本当にあり、効果抜群なことに驚くしかない。
今だって加藤のことを考えると胸が高鳴り、フィルターがかかってるのか加藤がとても可愛く思える。
「そーなんだ!加藤くんのこと好きになっちゃったんだ!」
「ああ……。これいつ効果無くなんだよ」
何故か嬉しそうな正志に『面白がりやがって』と思うが、いつも他人から好かれることはあっても自分から好きになることはなかった俺にとって、初めての恋に正直戸惑っている。
だけど『恋ってこんな感じなのか』『好きになるとこんな風に思うのか』と少し新鮮で面白くもある。
「えー?……覚えてないけど多分1週間ぐらいじゃない?」
「そんなに持続すんのか……」
ということは、惚れ薬の効果で1週間俺は加藤を好きでいるってことか。
「なぁ、加藤。お前って恋人いる?」
「いないけど?……突然何?さっきもジッと見てたし、なんかあった?」
「いや、なんでもない」
そっかと言い、再び前を向いてしまった加藤にギュッと胸が締め付けられる。
やっぱ加藤のことが好きだ、俺
初めての感情に胸が躍る。
効果が切れるまでの1週間、どうやって過ごしていこうか
完
補足
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